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2015.11.26

段階的投資モデルの本質 (1/2)

日本でも段階的投資モデルを採用する必要性があるか

ベンチャー企業のガバナンスモデル」においてご説明したとおり、段階的投資モデルは、シリコンバレー型ガバナンスモデルに密接に関連しています。ここでは、日本のモデルは必ずしもこれと同一のものには進化しない可能性があることをご説明しましたが、日本の進化系モデルでも段階的投資モデルの採用が必要なのかということについて、整理してご説明したいと思います。「ベンチャー企業のガバナンスモデル」では、議論が少し専門的な話に及んでいましたので、多少の重複感はあるものの、もう少しわかりやすくご説明しつつ進めていきたいと思います。

関係的状態依存型ガバナンス

VCによる個々のベンチャー企業に対するガバナンスは、関係的状態依存型ガバナンスの形をとります。つまり、ベンチャー企業の事業計画は、開発フェーズ、マーケティングフェーズ、拡大フェーズ、内部管理体制整備フェーズといった具合にフェーズに分けることができ、それぞれのフェーズごとに資金ニーズが出てきます。VCは、ベンチャー企業と合意した事業計画をベースに、次のフェーズに必要と見込まれる資金を投資し、ベンチャー企業は受け入れた資金を元手に、そのフェーズのミッションをクリアするため最大限の努力をします。

努力の結果、そのフェーズのミッションをクリアすることができた場合、VCは次のラウンドで、新たなフェーズに必要な資金をベンチャー企業に投入します。ただ、ベンチャー企業の事業は新規性が高く、類似業者との比較によって将来の展開を予測することが困難であるといった不確実性を伴うため、そのフェーズのミッションを常に予定通りうまくこなせるとは限りません*。

仮にミッションを達成できなかった場合、VCはその時点の状態に応じて、更に投資を続けてミッション達成に向けて努力させるか、又は支援を終了して議決権行使を通じて経営に介入するかのオプションを持つことになります。このオプションの存在が、ベンチャー企業に規律を与え、自らVCに対してコミットした目標を達成しなかった場合のスレット(脅し)として効いてくることになります。

以上がVCによる関係的状態依存型ガバナンスの基本的なモデルです。上記から明らかなとおり、このモデルでは、投資がフェーズごとに複数回に分かれて行われることが予定されており、各投資フェーズで、投資リスクのプロファイルが異なってきます。

* 念のため付け加えると、周囲の困難な状況にもかかわらずフェーズにおけるミッションを達成することができるかどうかは、ひとえに企業家の能力にかかってきます。つまり、ミッションの成功に向けて、期限から逆算していつ何をすべきか、そのために誰を巻き込んでどのように進めるべきか、といった工程表を立てる戦略的思考能力と、これを実現するためのロジスティクスを整備する能力、そして何よりも、意欲的な目標の実現に向けて周りの人を鼓舞し巻き込んで、同じ目標に向かわせる情熱や精神力といった企業家精神が問われるのです。

関係的状態依存型ガバナンスと優先株式による段階的投資モデルとの関係

関係的状態依存型ガバナンスモデルでは、ベンチャー企業に対するガバナンスを担当する基幹となるVCの存在が想定されています。「ベンチャー企業のガバナンスモデル」では、①これが日本の伝統的なガバナンスモデルであるメインバンクによる関係的状態依存型ガバナンスに類似していること、②ただしこの外形的な類似性を基礎に、商業銀行的な姿勢でVC投資を実行しても、ベンチャー企業のリスクプロファイルと投資家サイドのガバナンス体制がマッチしないことからうまくいかないこと、③投資家サイドのガバナンス体制がシリコンバレーのものと同等の独立系VCがこの地位に取って代われば、シリコンバレーにおける多産多死型のアンパイアモデルとは異なる形の、VCによるガバナンスモデルが構築できるのではないかということを、ご説明しました。この点を要約して再論すると、以下のとおりです。

  • シリコンバレー型ガバナンスモデルは、クラスターとして存在している同一業種の多数のベンチャー企業群と、そのガバナンスの担い手であるVCの存在を前提条件とする。そして、一つのVCが同種の事業を行う複数のベンチャー企業に投資することで、その中から伸びていく企業への投資を継続し、失速する企業への継続投資を中断するということができる形で、オプション権を取得したことになるよう投資ポートフォリオが組まれる。
  • このようなオプション権をVCに持たれていることによって、ベンチャー企業は自社がVCにコミットした業績を何とか達成しようという強いインセンティブを持つことになる。これがシリコンバレーにおけるアンパイアモデルといわれるモデルである。
  • 日本では、シリコンバレーほどベンチャー企業の集積が進んでいないこと、このようなある意味ドライな関係に徹するというモデルは日本人の国民性に照らすとあまり説得力をもたない可能性があることから、管理人は、このアンパイアモデルまで日本に導入できると考えることには懐疑的な考えを持っている。
  • 各制度は、各地域の歴史的・文化的背景を前提に、技術・政治・思考様式などの変化に伴って均衡点が動くことによって進化していくという考え方からすると、日本のベンチャー企業のガバナンスモデルは、投資家としての合理的判断を行うことができるガバナンス構造を持った独立系VCが、かつてメインバンク制度のもと銀行が中小企業に対して担っていたメンター的な役割を担う、という姿が最も自然なのではないか。

では、この日本型のVCによるガバナンスモデルと優先株式を用いた段階的投資モデルには、どのような関係があるのでしょうか。言い換えれば、管理人が考える日本型のVCによるガバナンスモデルを採用するにあたって、なぜ優先株式を用いた段階的投資モデルを利用すべきと考えるのか、という疑問です。

結論から申し上げると、段階的投資を行う以上、同一の投資家が最初から最後まで同一の割合で資金を供給するという前提を置かない限り、アンパイアモデルであれメインバンクモデルであれ、クラスの異なる優先株式を用いないと、投資家から見て合理的なファイナンスとならないというのが、管理人の考えです。つまり、複数の投資主体が異なる時系列でベンチャー企業への投資に参加する可能性がある以上は、クラスの異なる優先株式を用いないと投資家間の実質的な衡平が確保できないと考えます。

次の稿では、段階的投資モデルによる投資がどのように組まれているのかについて、もう少し詳しく説明し、そのための投資契約のあり方についてご説明することで、複数の投資主体が異時点で投資を実行する以上は、ガバナンスモデルのいかんにかかわらず、クラスの異なる優先株式を用いた段階的投資モデルを採用すべきであることを明らかにします。

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