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2015.11.26

新規株式公開関連-タームシート解説 (3/6)

株式公開の努力義務

タームシート解説の第3回は、新規株式公開に関する条項についてです。

米国の「登録請求権」

米国のベンチャーファイナンス実務をご存知の方にとっては、新規株式公開に関する条項が日本と米国のベンチャーファイナンスのタームにとって大きな差のように見えるかもしれません。

米国の証券法上、株式はSECに登録されたものでなければ自由に譲渡することができません。すなわち、新規株式公開された場合であっても、その際に登録された株式のみが市場で取引することができることになります。そこで、ベンチャーファイナンスのタームには、株式の登録について、詳細な規定が設けられています。

具体的には、米国のベンチャーファイナンスにおいて、優先株主は、以下の3種類の登録請求権を持つ旨が定められているのが一般です。

  • 強制登録権(Demand Registration):一定の売出価額や時価総額の実現を条件に、登録可能な証券を持つ投資家の一定割合が要求した場合に、証券の登録(≒新規株式公開)を会社に義務付ける条項
  • ピギーバック登録権(Piggyback Registration):会社が新規株式公開をする場合に登録する株式の下限値を定めると共に、公開する場合に投資家の株式も持分割合に応じて登録することを要求することができる条項
  • S-3登録権(S-3 Registration Rights):証券法上の簡便な登録であるForm S-3の登録を会社に要求することができる条項

しかしながら、株式公開が可能かどうか、すべきかどうかは市況などを睨みながら判断すべきであることは、米国の実務でも同様です。したがって、例えば、登録強制権は実際には用いられないというのが関係者の中での半ば当然の了解事項となっています。

日本の「公開努力義務」

日本では、新規株式公開する場合、その時点で発行されている公開対象の種類の株式(一般には普通株式)の全てを上場の対象とすることとされているため、登録請求権をベンチャーファイナンスのタームとして詳細に規定することは必要ありません。

他方で、投資家として一定のエグジット期待を契約書に盛り込んでおく趣旨で、株式公開の時期に関する努力義務が規定されるのが通常です。実際に株式公開ができるかどうかは、市況によって左右されますので、この義務はあくまで努力義務として定められ、結果として遵守できなかったとしても、直ちに契約違反として会社なり経営陣なりが法的責任を追及されないように作りつけられるのが一般です。

なお、株式公開の時期に関する規定は、会社にとっての努力義務として規定されるものではありますが、特に投資家がファンド等である場合、ここにはファンドの存続期間との関係でファンドが望むエグジットのタイミングに対する期待が込められることになります。

ファンドは、ファンドに対する投資家である金融機関について独禁法によって課せられている事業会社投資の年限制限との関係で、一般に存続期間を10年として定められているケースが多いですが、存続期間の最後の1、2年を売却活動期間として定めているため、ファンド創設から8、9年目あたりから投資資産の売却活動を開始します。ファンドが実際に企業に投資することができる投資期間は、ファンド創設後4、5年と定められているケースが多いですので、ファンドが投資対象の株式を保有することができる期間は、ファンドに対する投資家との約束によって、自ずと限られてきます。

ファンドマネジャーは、こうしたファンドに対する投資家との約束を念頭に、ベンチャー企業に対する投資年限を決めますので、ファンドがエグジットまでに待つことができる期間は、自ずと決まってきます。

株式公開の時期に関する規定は、それ自体は努力義務ではありますが、このように投資家にとっては故なく定めているものではありません。投資家は、この年限を過ぎれば、投資家の投資家に対する義務を果たすために、エグジット活動を進めざるを得ないわけで、これが、起業家にとっては、しばしば投資家が手のひらを返したような行動に出ると映ることがある理由です。起業家は、ファンドがどのような仕組み(ガバナンス)のもとで行動・判断しているかを正しく理解しなければなりません。特に、受け入れた投資は、ファンドマネジャーにとってはどうにもならない理由により、エグジットが図られなければならないという前提で、起業家自身が投資を受け入れているのであるということに自覚的である必要があります。

※ しばしば、ファンドが突然手のひらを返したように投資回収を図ってきたので、予定した事業戦略が実現できなかったという恨み言を起業家から聞くことがありますが、このような恨み言は筋違いです。起業家やベンチャー企業は、高齢者や主婦など、投資の世界で保護されるべき弱者ではありません。投資家と対等の関係で堂々と渡り合い、合理的なファイナンス条件を獲得すべき、一人前のベンチャーファイナンス市場の参加者です。

逆に、新規株式公開の努力義務が、他の条項に紐付けられている場合には、注意する必要があります。考えられる例として、例えば優先株式の償還(買戻し)条項に連動している場合には、単なる努力義務とは異なるインパクトを持つことになります。起業家が、そのような投資条件となっている投資契約を締結することを決定した場合には、定められた時期までに新規株式公開が果たせなければ、財務的にも一定のインパクトがある提案が投資家からなされるであろうことを覚悟して、そのような投資を受けるべきということになります。全ては起業家の皆さん次第、提示された投資の条件を正しく理解できるほどに勉強し、その条件を受け入れるかどうかを自覚的に判断できるかどうかにかかっているのです。

マーケットスタンドオフ

新規株式公開の場合、引受証券会社から、既存株主のうち大口株主は公開から一定期間の間、市場で株式の売買を行わないように要請されることがあります。これは、新規株式公開後、株式が一定の不動株式数を獲得し、大口の売買を吸収できるまでの期間、投資家に待機期間を課す趣旨で定められます。

マーケットスタンドオフ条項(またはロックアップ条項)は、この待機期間につき、会社と投資家の間で事前に約束をしておく趣旨で一般に設けられています。

なお、ロックアップ期間は一般には180日が定められています。

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