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2015.11.26

ブリッジファイナンスの基礎

資金調達の種類

起業家の皆さんがシードマネーの調達をする方法としては、大きく株式(エクイティ)による方法と借入れ(デット)による方法があります。株式と借入れの基本的な違いは、調達する企業サイドからすると以下の点に集約できるでしょう。

  • 調達資金を返済する義務を負うか負わないか
  • 利息を支払う必要があるかないか
  • 株主総会の議決権を持つか持たないか

一方で、投資家の得られるリターンという側面から見ると、概ね以下の点が相違として重要になるでしょう。

  • 元本と利息に対する権利を確定的に持っているかどうか
  • 投資先が成長した場合にアップサイドを得られるかどうか
  • 株主総会の議決権行使という形で経営に関与できるかどうか

ただし、株式と借入れの上記の違いは図式的なもので、実際には株式や借入れの内容次第で「株式のような借入れ」や「借入れのような株式」を作ることができます。

実際、優先株式というのも、配当の優先権や残余財産の優先分配請求権を通じて、普通株式よりも元本(投資金額)と利息(投資期間に見合った収益相当額)を優先的に回収することができる仕組みとすることで、借入れのような株式(負債性資本)とすることも可能です。現に、きちんと収益があがっている会社であれば、借入れのような内容の優先株式を発行することで資金調達することが、一般に行われています。

同様に、「株式のような借入れ」を実現するための方法もあり、これがコンバーティブルデット(転換型借入れ)ということができます。この借入れの方法にはいくつか種類があります。米国では日本でいうところの手形(Promissory Note)を用いますので、コンバーティブルノートと呼ばれます。これに対して、日本では社債(Bond)を利用することが多いため、コンバーティブルボンド(転換社債、CB)と呼ばれます。なお、厳密には、株式のような借入れ(資本性負債)というためには、借入れに劣後条項がついていなければいけませんが(劣後借入れ)、起業家の皆さんにベンチャーファイナンスを理解していただくという意味では、あまり複雑になってはいけませんので、劣後云々はとりあえず措いておこうと思います。

用語の説明

転換社債は、会社法では「新株予約権付社債」または実務上は転換社債型新株予約権付社債と呼ばれていますが、このサイトは起業家の皆さんにわかりやすく説明することを目的としていますので、一般的な「転換社債」という用語を使うことにします。また、米国のコンバーティブルノートについても、機能は同じですので、このサイトでは「転換社債」と呼ぶことがあります。「コンバーティブルデット」という表現は、社債以外の形での借入れ(具体的には通常の貸付契約など)も含むものとして使うこととします。

ベンチャーファイナンスで使われるコンバーティブルデットは、一般に「ブリッジファイナンス」と呼ばれるものの一種です。ブリッジファイナンスというのは、日本語で「つなぎ融資」と呼ばれることがあります。つなぎ融資というと、中小企業が当座の資金を賄うために銀行から短期のローンを出してもらうという語感がありますので、ベンチャーファイナンスの世界では「ブリッジファイナンス」という言葉を使うのが一般的です。

コンバーティブルデットの基本的な仕組み

ベンチャーファイナンスの世界でのコンバーティブルデットは、ひとことで言うと「株式による次の資金調達ラウンドまでの期間限定の借入れであって、借入金を株式で返済することをあらかじめ約束しておくもの」ということができます。つまり、最初に借入れによって調達しておいて、これが次の資金調達ラウンドで株式に入れ替わる(転換する)ことになります。

株式への転換の条件を、当初の借入れの段階で約束しておくというところがポイントです。会社が苦境に陥った時に、借入金を株式に交換してもらうことでリストラを図るデット・エクイティ・スワップによるリストラ取引がありますが、ブリッジファイナンスは、借入れの段階で将来一定の条件で株式に転換することを約束していることで、金融的にはまったく別の取引ということができます(デリバティブ取引)。

では、コンバーティブルデットの「あらかじめの約束」とは何でしょうか?

コンバーティブルデットは、当初は借入れですので、まず元本と利息と返済期限(満期)が決まっています。借入れである以上は、満期までに返済しないとデフォルトしてしまうことを意味します。

次に、次の資金調達ラウンドで株式に転換することが約束されていますので、①どういう条件の資金調達で、②どのような種類の株式に転換され、③何株の株式が交付されるのかが重要です。

①どういう条件の資金調達かについては、通常、一定金額以上の資金調達を「適格資本調達(Qualified Equity Financing)」と定義することで定めます。そして、満期までに適格資本調達がされれば株式に転換されることを約束することで、会社は、デフォルトを避けるためには満期までに条件を満たす資金調達を行うことを強制されることになります(もちろん、返済資金があれば、返済することによって、そのような資金調達をしなくてもよいことになります)。

②どのような種類の株式に転換されるかについては、通常は、その適格資本調達の時に発行される株式ということになりますが、これに加えて普通株式を発行することを約束することもあります。

③何株の株式が交付されるかについて、これは結局、転換時の借入れの元本と利息の残高(A)を、発行される株式の1株あたりの価額(B)で割り算することによって算出されます。元本と利率は決まっていますので、発行から転換までの期間によってAはすぐに決まります。

これに対して、1株あたりの価額(B)は、いくつか考える必要がありますが、詳細は別のエントリーに譲ることにします。ここでは、適格資本調達を実施する前にファイナンスをつけてリスクを負担した以上、Bは、適格資本調達で投資する投資家よりも有利な条件となるのが合理的という点を指摘するにとどめておきます。

なぜコンバーティブルデットを選択するのか

以上から分かるとおり、コンバーティブルデットは、以下の特徴を持ちます。

  • 基本的な性質は借入れなので、満期までに現金または株式で返済できなければデフォルトする。
  • 株式による返済は、満期までに一定金額以上の資本調達ラウンドをアレンジできなければ行えない。

これは、仕組み上の特徴を説明したものに過ぎませんので、返済できずに満期になっても、投資家から返済猶予を受ける可能性もありますし、別のアレンジの負債に切り替えてもらったり、当初の約束とは異なる約束で株式に交換してもらったりするということも実務上はありえます。ただし、そのような取扱いをしてもらうことを「あらかじめ」約束してくれる投資家はいませんので、このような期待は事実上のものにとどまります。つまり、デフォルトするかどうかは投資家の意向次第ということになります。

バリュエーション先延ばしのメリット

こうして見ると、コンバーティブルデットによる資金調達は、起業家にとって良いことがないようにも見えますが、必ずしもそうではありません。

これまでご説明してきたとおり、株式で資金調達しようとする場合、「プレマネーバリュエーション」がいくらなのかを確定することが必須です。これは、特にシードマネーの調達時には、なかなか困難な作業です。シードラウンドでは、極端な話、事業計画しかない場合もあり、バリュエーションといっても、価格を決定する合理的な根拠が見出し難い状態です。「リーンスタートアップ」でご説明したとおり、最近はMVP(Minimum Viable Product)が存在することも多いですが、まだ価値仮説が検証されていない段階ですので、客観的なバリュエーションが困難という点は変わりません。

そして、シードラウンドは、しばしば過大評価(オーバーバリュエーション)となります。その結果、優先株式でAラウンドを実行したとしても、次のBラウンドで、Aラウンドの価格が高すぎたという理由で、資金調達が困難となることがあります。悪い場合にはBラウンドの1株当たりの価額がAラウンドの価額を下回ることになり、A種優先株式の稀釈化防止条項がトリガーしてしまうということが起こりえます。

こうした事態が起こるのは、Aラウンドの段階でのプレマネーバリュエーションの算定が原因ですので、この段階でバリュエーションをせずに資金調達ができないか、と考えるのが通常でしょう。その解決策が、コンバーティブルデットということになります。

つまり、コンバーティブルデットは借入れであり、会社のバリュエーションがいくらかということを、必ずしも問題とする必要はありません。要は満期までに元利金が返済されればよいのです。

コンバーティブルデットが株式になるのは、次の資本調達ラウンドということになりますので、その時まで会社のバリュエーションの問題を先延ばしすることができるわけです。コンバーティブルデットで転換される株式の価額は、しばしば、適格資本調達時の1株当たり価額の○%という形でディスカウントされますので、コンバーティブルデットの投資家は、次のラウンドの投資家と会社との間でプレマネーバリュエーションが決まれば、必ずそれの○%ディスカウントした価額で同じ株式を取得することができます。「次のラウンドの投資家」は自身の投資利益のために、会社との間でプレマネーバリュエーションを真剣に検討するインセンティブ(つまり、プレマネーバリュエーションを低い価格で合意するインセンティブ)を持っていますので、コンバーティブルデットの投資家は、これに依拠すればよい、ということになります(実はもう少し複雑なのですが、この点は別稿に譲ります)。

これを起業家から見ると、バリュエーションを決めずにシードラウンドの資金調達を実現するということになり、これが起業家から見た、コンバーティブルデットを利用する合理的な理由ということになります。

簡易な資金調達

コンバーティブルデットによって資金調達することの起業家から見たもう一つの利点として、理論的にはファイナンス関連契約の内容は簡素になり、縛りがきつくならないということがあります。つまり、借入れであり、満期までに元利金を返済することを約束している以上は、約定どおり現金なり株式なりで返済すれば文句はないはずであり、経営に口出しされる筋合いはない、というわけです。

特に、シードラウンドで手元資金が少ない起業家は、十分なファイナンスコストを負担できませんので、契約書等は簡単なものであるに越したことはありません。株式投資ですと、借入れのような返済約束はできませんので、投資家としても、投資回収の可能性を高めるため、取締役やオブザーバーを派遣したり、事前報告や事前承諾を求めたりすることで、会社の経営をモニタリングする必要が出てきます。そのため、株主間契約といった形で、会社と起業家との間で、会社の経営に関する約束事を文書化する必要が出てきます。

コンバーティブルデットの場合は、それが借入れである限り、そのようなモニタリングの必然性はないことになります。モニタリングが開始するのは、借入れが株式に転換された時でよく、これは要するに、次のラウンドの投資家とともに、株主間契約を会社や起業家と締結することに尽きます。

留意点

以上が、コンバーティブルデットを起業家が選択する合理性としてしばしば掲げられるポイントです。なお、一点目のポイントは、コンバーティブルデットという仕組みから導き出されるポイントであるのに対し、二点目のポイントは、論理必然の関係にはないことに留意が必要です。

特に、日本では、伝統的に銀行が中小企業のガバナンス・モニタリングを担ってきたという経緯から、貸付人によるガバナンスということにあまり違和感がないというのが実際のところかと思います。つまり、コンバーティブルデットであっても、経営のモニタリングを効かせるタイプの投資家は想定されるということです。こうして投資家が経営に関与するタイプのブリッジファイナンスの場合、投資家と経営陣の間の関係は、優先株式の場合と同様、関係的状態依存型ガバナンスの側面を持つことになると考えられます。したがって、満期が来たとしても直ちにデフォルトということではなく、状況に応じて猶予期間を設けたり、借り換えに応じたりということが起こりやすいというのが、ガバナンス論からの帰結ということになります。

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