INFORMATION
home

2015.11.26

日本版Convertible Equity(コンバーティブル・エクイティ)の新展開 (2/2)

コンバーティブル・エクイティの設計のポイント

日本版Convertible Equityの新展開 (1/2)」では、どの法的な様式を用いてコンバーティブル・エクイティを設計するかという点について、各方式のメリットとデメリットを比較しながら検討してみました。

建付けの問題は、各コンバーティブル・エクイティに関する条件として明示されないイシューとして重要なのですが、コンバーティブル・エクイティを検討するにあたっては、それぞれの条項の経済条件をよく考える必要があります。

コンバーティブル・エクイティの経済条件は、コンバーティブル・デットの経済条件から満期と利息を外したものと考えればよいですので、詳細は「シード段階のブリッジファイナンス」の記事をお読みいただければと思いますが、これまで日本の実務を見てきて、当事者間で誤解していたり、本来あるべき設計と異なる設計がなされていたりするものも見られますので、簡単に注意点を記しておきます。

転換される株式の種類について

転換型証券によるシードファイナンスは、もともと優先株型の資本戦略を採用するスタートアップ企業向けに考案された仕組みですので、次回の資金調達は基本的には優先株式(具体的にはA種優先株式)であることが想定されています。

しかし、日本の登記実務上は、発行の段階で存在していない種類の株式に転換する新株予約権の登記は受け付けないことになっていますので、正面からA種優先株式に転換するということは規定できません。そこで、設計上は、普通株式に転換するものとしつつ、「但し、次の資金調達が普通株式以外の種類株式である場合には、その株式に転換する」などとして、普通株式への転換権を確保した規定の仕方が必要になります。

この形を取ることで、「次の資金調達が普通株式であった場合にどうするのか」という日本の従来型のベンチャーファイナンスへの接続性も確保されていると言いやすいという面もあります。

なお、コンバーティブル・エクイティの投資家は、ディスカウントつきで優先株式を取得します。つまり、同じ優先株式でも、発行価額が次のラウンドの投資家と異なることになりますので、厳密には全く同じ株式ではなく、発行価額等が異なる点以外の条件が同じ優先株式ということになり、優先株式には枝番号(A1、A2等)が付くことになります。

 株式発行の局面について

株式への転換の場面として想定されるのは、①適格資金調達時、②支配権移転事由発生時の2つです。この場合、適格資金調達が発生しない場合にどうなるのか、という点が気になる投資家と起業家がいますので、一定の基準日を設けて、その基準日までに上記①と②のどちらも発生しなかった場合には、普通株式に転換されるということを規定する場合があります。

なお、500 Startupsのコンバーティブル・エクイティであるKISSでは、この段階ではSeries Seedに転換されることが規定されており、普通株式のバリュエーションをつけないことに対する配慮がなされています。

 誰のイニシアチブで株式となるか

コンバーティブル・エクイティは、発行会社に対して、一定の目標期限までに一定の額の資金調達を実現してもらうことを前提として、その段階で投資家がどれだけの株式を持つことになるか、という発想で設計されています。

つまり、インセンティブ構造としては、

  • 目標期限までに優先株式で目標金額以上の資金調達(適格資金調達)を達成した場合には、事前に設定した条件で、発行会社が、投資家の有無を言わさず株式に転換する。
  • 目標期限までに適格資金調達を実現できなかった場合には、上記よりは投資家に有利な条件で、投資家が株式に転換する権利を持つ。

という構造になっているのが本来の姿です。

前者は、新株予約権の取得条項として設定されることになります。日本では、コンバーティブル・デット方式(新株予約権付社債方式)を含めて、適格資金調達時でも投資家が転換権を持つような形で設定される場合があります。引受契約のなかで、適格資金調達時には投資家が転換権を行使することを義務付ける方式であれば問題ありませんが、この点について投資家がフリーハンドを持っているものもありますので注意が必要です。

支配権移転事由発生時の取扱い

スタートアップファイナンスである以上、シード段階であってもエグジットの可能性は想定しておく必要があります。もちろん、シードファイナンスのみでIPOまでたどり着くことはありませんので、想定するエグジットはM&A(又は清算)ということになります。この場合のシード投資家と発行会社のエグジット成果の取り分については、西海岸では、以下のように設定されるのが通常です。

  • エグジット金額が大きくなった場合に、早期投資の成果を得られるよう、バリュエーションキャップ(「シード段階のブリッジファイナンス」参照)を前提に計算された転換価額で普通株式を取得することができる。
  • エグジット金額がそれほど大きくない場合、シード投資家は、投資元本までは返還を受けられるよう、コンバーティブル・エクイティの金銭償還を得る。

上記の金銭償還については、西海岸の実務では元本の2倍という形で設定されるものをよく見ます。なお、日本では、元本の2倍の償還は、利息制限法との関係で、コンバーティブル・デット方式では設定されないのが通常です。逆に、新株予約権の場合には、これを設定してはいけないという明示のルールはありません。この点は、新株予約権方式(MSワラント方式)をシード投資家が選択する動機となるかもしれません。

新株予約権方式のコンバーティブル・エクイティのタームシート

このように、新株予約権方式(MSワラント方式)のコンバーティブル・エクイティは、条件を上記の点に注意して適切に設定することで、西海岸のコンバーティブル・エクイティの実務とほぼ経済的に同じ形で設計することができます。

シードラウンドの投資は、現状のところ比較的好調に推移しているようですので、シード投資を受けることを検討される起業家の皆さんや、シード投資で他の投資家が提示する条件よりも発行会社にとって有利であることを示したい投資家の皆さんは、新株予約権方式を選択肢の一つとして検討されてみてもいいかもしれません。

ご参考までに、新株予約権方式のコンバーティブル・エクイティで資金調達する場合のタームシートを掲載しておきます。

コンバーティブル・エクイティタームシート

INFORMATION
Copyright © 2015 MASAKAZU MASUJIMA