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2015.11.26

エクイティ・クラウドファンディングの展開

株式形態のクラウドファンディングの論点整理

安倍政権が設置した規制改革会議の創業等ワーキング・グループ(WG)でクラウドファンディングがとりあげられたことを契機として、エクイティをベースとしたクラウドファンディングの議論が活発化してきました。

米国でいわゆるJOBS ACTが成立した2012年3月以降、世界のベンチャー業界ではエクイティをベースとしたクラウドファンディングのトピックがよく取り上げられるようになりました(JOBS ACTについてはこちらをご覧ください。また、プレゼン資料をこちらにアップしています。)。

2012年末に出るといわれていた施行ルールが遅れていることもあって、米国でもJOBS ACTに基づくエクイティクラウドファンディングサービスは、この記事の執筆時点では正式な形ではローンチしていません。けれども、英国では監督当局であるFCAの認可を得たサービス事業者による展開が既に行われているなど、世界的にこうしたサービス形態が注目を浴びる流れができており、こうした動きは2013年以降の資金調達のトレンドにとって無視できないものとなりつつあります。

成長企業に対する資金調達に携わっている立場として、管理人自身も、事業者の方々はもちろん、金融庁やシンクタンク、他のメディアや有識者の方々から、エクイティ・クラウドファンディングについて意見を求められる機会も増えてきており、こうしたトレンドの日本での広がりを日々感じております。

こうした点をふまえて、今回は、エクイティ・クラウドファンディングについて、現時点での議論の簡単な整理をしてみたいと思います。

寄附型、購入型、投資型といった、クラウドファンディング一般のソーシャルファイナンスという金融の文脈から見た議論の整理については、こちらのプレゼン資料をご覧いただければと思います。特に、クラウドファンディングが、先進国型のソーシャルファイナンスの一類型として、SNSなどにより作られたソーシャルネットワークを基盤として行われる、資金需要者の信用情報の創造活動に依拠したサービスであること、投資者による資金拠出の動機は、必ずしも収益性などの経済合理性に基づくものではなく、資金需要者の活動に対する共感に基づくものでありうること、は重要であると考えています。そしてこれらは、対価がエクイティという形を取ったとしても、軽視されるべきではない特徴であると考えられます。

エクイティ・クラウドファンディングとは

バズワードとなってしまった言葉にしばしば見られるように、エクイティ・クラウドファンディングという言葉についても、人によって指すものが相当異なるという状況になっています。たとえば、「多数の投資家から少額ずつ資金を集める」というのは、まさにこれまで株式市場が担っていた役割にほかならず、パブリックオファリングというのは、クラウド(大衆)に対して株式(エクイティ)を用いて資金を調達する活動です。また、株式以外の形(集団投資スキームなど)で有価証券投資以外の資金を調達する仕組みは、これまでにも日本に存在しています。

※エクイティをベースとしたクラウドファンディングサービスの例として、現在日本では、いわゆる「ソーシャルレンディング」と呼ばれているサービスと、資金需要者自身が組成する匿名組合出資などの集団投資スキームの組成を手伝うサービスがあります。「ソーシャルレンディング」は、資金需要者に対しては貸付を行っているものの、その原資を集める方法は匿名組合出資などの集団投資スキームによって行われていますので、これらもエクイティをベースとしたクラウドファンディングの一つとして位置づけられます。

例えば、英国のNestaが公開しているThe Venture Crowdというペーパーでは、未公開企業のエクイティ形式での資金調達を、一部の資産家に限定されない“クラウド”が支える仕組みとして、エクイティ・クラウドファンディングを位置づけています。同様に、米国でも特定の資産家(Accredited Investors)のみが出資することができる仕組みであれば、JOBS ACTを待つことなく現行法でも行うことができることとされています。

このように、現在議論されているエクイティ・クラウドファンディングとは、インターネットを通じて「誰でも」「未公開企業に」「エクイティの形態で」投資することができる枠組みであるということができます。

日本の金融庁も、創業等WGに提示した資料に、クラウドファンディングを「新規・成長企業と投資家をインターネットサイト上で結びつけ、多数の投資家から少額ずつ資金を集める仕組み」として紹介しています。そして、「インターネットを通じた株式形態での資本調達を可能とする枠組み」としてエクイティ・クラウドファンディングをとらえ、これを実現するために金融仲介業者を活用する枠組みを検討するものとしています。

エクイティ・クラウドファンディングの形態

諸外国のエクイティ・クラウドファンディングサービスを見渡すと、インターネットを通じて未公開企業に対するエクイティによる資金調達を可能とする枠組みとしては、投資家が保有することになるエクイティの種類に応じて、大きく次の2つの方式があります。
① 投資家が資金需要者である未公開企業の株式を保有する形態
② 株式はクラウドファンディングサービス事業者が保有し、投資家はこれに対するファンド持分を保有する形態

今回はこの2つの形態のうち1つめの形態について、現行法の規制の状況と、エクイティ・クラウドファンディングサービスが立ち上がるために検討が必要な論点について、簡単に整理してみたいと思います。

株式を保有する形態のクラウドファンディング

現行法の規制の状況

投資家が株式を直接保有する形態では、クラウドファンディングサービス事業者は、未公開企業による株式のクラウドに対する勧誘を手伝う者として取扱われます。通常株式の取得をこのような形で広く大衆に勧誘する行為は、有価証券届出書を提出して行わなければならないとされており、これはIPOそのものになってしまいますので、有価証券届出書を提出しなくてもよい範囲で、これを行う方法が求められます。日本では、現行法では1億円が上限とされています。
※ 米国ではJOBS ACTにより100万ドル、EUでは500万ユーロが上限となっています。

また、日本の現行法では、クラウドファンディングサービス事業者は、株式の募集を取扱うためには第一種金融商品取引業の登録を受けなければならないとされています。第一種金融商品取引業者とは要するに証券会社ですので、規制としてはなかなかに重たい規制であるということができます。
※ 現状は証券会社が加盟する証券業協会の規則上、グリーンシート銘柄以外の非公開企業の株式の募集の取扱いにつき一定の制限が課されています。

論点整理のポイント

株式を保有する形態について規制をデザインすることを考えた場合、サービス提供者側の視点、資金需要者側の視点、投資者側の視点と3つを考えることが必要かと思います。

投資者側の視点

未公開企業の株式への投資については、投資家にとって以下のリスクがあります。
(a) 収益モデルが確立していない企業への投資が含まれることから、投資家が損失を被る危険が高いこと(損失リスク)
(b) 現に取引市場がなく、将来の上場やバイアウトも確約されていないことから、仮に投資対象企業が成功したとしても、株式を売却する機会が与えられない可能性があること(流動性リスク)
(c) 成長志向の企業は、収益を再投資して事業を成長させるのが一般的であることから、配当収益を得ることは期待できないこと
(d) 資金ニーズが高く、更なる株式による資本調達が予定されていることが通常であることから、持分が稀釈化していくこと(稀釈化リスク)

また、もし仮にとてもよい事業内容の未公開企業であれば、他の金融投資家(例えば銀行などの金融機関やVCなどのプロ投資家)にアプローチされているはずであり、敢えて調達源をクラウドに求める必要はない可能性があります。そのような中で調達をクラウドに求めている未公開企業の投資リスクをどのように考えるかという問題もあるかもしれません。

通常の上場株式に比べて類型的に高いリスク特性を持つ未公開企業の株式に対する投資について、規制の態度としては、「ハイリスクな投資であるから、損失を被っても問題が小さい資産家や、未公開株式の投資についてよく分かっている投資のプロだけが投資できることとしたい」と考えるのが自然かもしれません。この思考様式に従って、一定の資格を持つ投資家(例えば特定投資家)だけが投資することができる、ということにすると、先ほどの「誰でも」投資できるというクラウドファンディングの理念から離れてしまいます。

「(類型的にリスクが高いはずの)未公開企業の株式に対して誰でも投資できる」という世界観を、現行の投資者保護ルールと整合する形でどのように実現するかが、規制をデザインするにあたって最も重要なポイントの一つとなります。

投資者保護のための方法としては、投資資格を限定する方法のほかに、企業内容の開示を徹底させる方法や、案件選別やその後の調達企業の行動につきサービス提供業者に責任を持たせる方法が考えられます。

しかし、企業内容の開示を徹底させるというのはまさに株式公開(IPO)で行われることで、検討されているエクイティ・クラウドファンディングは、IPO前で開示負担に耐えられない企業に対する資金提供の方法が議論されているわけですから、開示の強化による解決は、方向性として適切ではない可能性が高いと思われます。

また、クラウドファンディング事業者に対し、案件選別に対する責任や、その後の調達者のマネジメントについて責任を課す方法については、TOKYO AIMの指定アドバイザー制度の例を見ると、やはりうまくいかない可能性が高いと思われます。

こうした中で「資格を限定せずに未公開企業の株式に対して投資することができる枠組み」をどのように作るかが問われることになると考えられます。
※ JOBS法では、年収や資産をベースに1個人投資家が1年間に投資することができる投資額に上限を設けることで投資家保護を図ることとされています。英国のサービスでも、年収や資産につきサービス事業者に情報提供されていない投資家については、1件あたりの投資額を限定する手法がとられているものがあるようです。日本では、貸金業法には借入上限という形で総量規制の制度を導入していますので、年収や資産に応じて1年あたりの投資額上限を課する形の法制も、必ずしも非現実的ではないかもしれません。

サービス提供者側の視点

エクイティ・クラウドファンディングにとって、投資者保護はとても重要な価値ではあるものの、投資者保護を厚くした結果、コストが合わずに誰もサービス提供者として手を挙げない、ということが起こらないようにする必要があります。

クラウドファンディングサービス事業者が事業を行う場合の報酬体系としては、資金需要者に対して調達金額に応じて課金する形が一般的です。例えば調達金額の20%を手数料としてとることとした場合、これをビジネスとして成立させるためには(すなわち売上から規制対応に必要な様々なコストを差引いた額がプラスとなるためには)、どのような規制のデザインとする必要があるかが、規制をデザインする側に問われることになると思います。

この観点から検討される余地のある論点としては、大きく以下の2点が挙げられると思います。
(a) サービス提供者は証券会社(一種業者)に限定されるべきか
(b) サービス提供者に課されるべき義務は何か

(a)の担い手の議論は、第二種金融商品取引業者にもこの市場を開放するか、という問題として提起されることになりそうですが、単に投資者保護の立場やサービス提供者が現れるかという実質的な議論のほかに、業者や業界団体の既得権益なども絡んだたいへん難しい議論であると思います。規制対応コストの重い一種業者か、又は二種業者か、という二者択一で考える必要は必ずしもなく、(b)エクイティ・クラウドファンディング市場の公正を保つことができる枠組みはどのようなものであるべきか、を考えた上で、その枠組みに参画するための資格要件を考える、というアプローチも考えられるかもしれません。

資金需要者側の視点

資金需要者について考える際にまずもって重要なのは、詐欺的な調達活動がはびこってしまってはマーケットが成り立たない、ということです。

したがって、資金需要者については、その身元を明らかにするとともに、調達のために開示した情報に真実と異なる事実や不正確な事実、誤解を招く表現などが含まれてはならないこと、こうした点に問題がある場合には厳格なペナルティが課せられることが必須の条件になります。

そのうえで、具体的にどの程度の情報開示が求められるかが検討される必要があります。

なお、エクイティ・クラウドファンディングには、詐欺防止や情報開示の観点から、他の資金調達とは大きく異なるいくつかの特徴があると指摘されている点には留意が必要です。

第1に、エクイティ・クラウドファンディングはインターネットの利用を前提としていることにより、高度な透明性が仕組みにビルトインされているという点です。

いうまでもなく一般的にインターネットに掲載されるコンテンツは、全世界に向けて公開されています。資金調達を行う企業は、会社についてはもちろんのこと、経営者が誰であり何を目指して起業したのか、調達した資金をどのように用いて事業を大きくしていくのかについて、画像や動画を用いて積極的にプレゼンテーションすることが求められます。こうした経営者個人のストーリー込みでなければ、インターネットを利用した資金調達など行うことができないからです。

質問もインターネットで受け付けられ、その回答もまた公開される仕組みが採用されています。当然、こうしたインターネット上の活動についてはすべてログが残ります。ログという形で証跡が残るということは、紛争等の場面での事後的な検証が客観的に容易に行われるということを意味します。

このように経営陣を含む資金需要者の素性がすべて明らかにされ、資金調達活動の過程がすべて公開されていることが、資金需要者による詐欺的な資金調達や虚偽の情報開示に対する大きな抑止力になります。

第2に、エクイティ・クラウドファンディングがAll or Nothingの構成をとることにより、調達を実現する案件を選別する結果となることが指摘されています。

All or Nothingの構成とは、一定期間内に目標金額に達しなかった場合には、そもそも案件は成立しないという仕組みです。これによって、目標金額を達成しないような質の悪い案件を選別し、このような案件に投資者が投資して損失を被る危険を減らしているという指摘がなされています。

第3に、一定期間の資金調達活動の公開を通じ、上記に包摂されない、いわゆるWisdom of Crowdsによる詐欺や虚偽の発見機能が指摘されています。

つまり、クラウドファンディングでは、資金調達活動を例えば90日とか180日とかの間、インターネット上で行います。こうした活動はソーシャルネットワークを通じてバイラルに拡散していくことが目指され、これによって調達を実現するわけですが、その過程で、多くの人たちの目に案件が晒されることになります。こうした中には、経営者のことをよく知る知人や、会社からサービスを購入したことがある顧客などが広く含まれることになります。また、その業界に詳しい専門家やライバル企業などもサイトを目にすることになるでしょう。

サイトに書かれている内容に虚偽があったり、専門家や同業者の目から見て非現実的と思われるものがあれば、こうした記述は指摘され、その調達活動はネガティブな評価が立つことになる可能性が高まります。こうした中で、案件の選別機能が働いていくという指摘です。

なお、資金需要者による詐欺防止や正確な情報開示の要請は、市場の開設者であるクラウドファンディング事業者と利害を共通にしていることに留意が必要です。つまり、クラウドファンディング事業者は、「場」の提供者として、自社サービスの上で詐欺や虚偽情報が流通してしまうと、自社のサービスが誰にも利用されなくなってしまうことを知っています。したがって、こうしたことが起こらないように自らサービスを設計するインセンティブを持っています。

そのようなインセンティブの発露としては、上記のような仕組みのほかに、たとえば、一般にどのクラウドファンディングサービスも、経営者のFacebookやLinkedInへのリンクを掲載していることにも現れています。これらはFacebookやLinkedInの実名性や1人1アカウントの厳格な運営に依拠することで、経営者がサイト上でおかしな活動をしないようサービスを設計しているとみることもできると思います。

実務上の論点

上記の法規制上の論点のほかに、株式形態のクラウドファンディングについては、実務上の工夫が必要なポイントがいくつかあるといわれていますので、これについて簡単に触れておきます。

第1に、株式の議決権をどうするかという問題があります。

クラウドに株式を取得させるということは、当たり前のことですが、多数の個人株主を抱えるということを意味します。普通株式には通常株主総会の議決権が付されています。また、その他にも、少数株主には株主としていくつかの権利が会社法によって与えられています。

特に議決権というのは、単に株主総会で賛否を表するということにとどまらず、その集積は会社の支配権を意味します。株主管理コストの問題や会社支配権の源泉となる株式を管理が困難なクラウド投資者に渡してしまうことの是非が問題となるわけです。

この点、海外のサービスの中には、クラウドにオファーする無議決権株式(普通株式から議決権を取り除いたもの)を作り、その取得を希望する投資者を募るという方法がとられているものもあります。

第2に、バリュエーションをどうするかという問題があります。

エクイティクラウドファンディングの対象企業は未公開企業であるため、上場会社と同様の意味での市場価格というものは存在しません。そうした中で、投資者に対して1株いくらで株式を発行することにするのか、その決め方が実務上問題となりえます。

この点も色々な解決策があり得ますが、海外のサービスを見てみると、目標投資額と募集する株式の割合を示した上で、目標に到達すると締め切るものや、目標額を超えて申し込みがある場合の柔軟性を確保しておくタイプのものがあるようです。

第3に、良質な案件を供給するための仕組みとして、目利きであるプロフェッショナルをクラウドファンディングにどのように関与させるか、という問題があります。

これはクラウドファンディングとVCなどの専門投資家の役割分担論の一つとして捉えられるかと思います。基本的な方向性としては、VCなどの専門投資家の目利き力をクラウドファンディングでいかに活用するか、という方向で議論されていますが、VCなどの専門投資家がこうした仕組みに参加するインセンティブがどこにあるのかということを考えると、仕組みとしてビルトインするためにはそれなりの工夫が必要であるように思います。

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