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2016.01.11

イノベーション法務 ~イノベーションとコンプライアンスの正しい関係とは~

NewsPicksで連載されるFinTech特集のうち法務部分についてインタビューを受けました。2回にわたって掲載されるとのことです。

金融業の規制体系から説き起こし、FinTechスタートアップと既存金融機関、金融庁が具体的にどのようにこのムーブメントをつかんで日本の国益を増進させることができるのか、ということが、金融業法と日本の規制監督の現状を踏まえて書かれています。

これは折に触れて発信していますが、僕が制度の変更にとって大切だと思っているのは経路依存性というものの考え方です。制度はどこかの国のものをぽっと持ってくることはできず、現状の制度のもとで現状のプレイヤーがどのようにゲームを展開しているのか、その構造をきちんと踏まえたうえで、そこから合理的にたどり着くことができる方向性を示していかないと単なる絵に描いた餅になります。

記事のはじめに書かせてもらいましたが、僕のポジションは日本の法律家であると同時に、イノベーションの法律実務を西海岸で実践してきた米国法弁護士であり、金融庁で金融機関の監督実務に携わりつつ国際金融規制の制定の現場にいた元官僚であり、シンクタンクで単なる法律解釈を超えて制度提言に携わったフェローとしての顔も持っています。

日本の弁護士業務を複数の領域で越境してきた経験から語っていますので、伝統的な日本の弁護士が説く「FinTechの法務」というものがあるとすると、異端に属する主張になっている可能性があります。

けれどもおそらくイノベーション法務というのは、こういうものをいうのだと思っています。

記事でも強調しましたが、世界を変えるイノベーションの本道は、これまで想定していない形の事業モデルを実現するものです。法律や制度はそのコミュニティの社会通念に従って作られていますので、社会通念的にはこれまで想定されていなかったビジネスを作ろうとするときには、必然的に法律や制度が想定していないものをスタートすることになります。この道を分け入って進んでいくのが価値あるイノベーションです。

これは、法律を遵守しなくてよいということを全く意味しないことに注意する必要があります。サービスの有用性を実証し、人々の生活をより豊かに便利にし、慣習を変えて法律を変える。こうした一連の活動を戦略的に実践していくためにどうすればよいか、ということを考える必要があるということです。

企業におけるコンプライアンスとは、それぞれのコミュニティにおいてその企業に対して求められている規範を守ることです。規範とはあるべき論であり、また外部的な期待と言い換えてもらっても結構です。

コミュニティには様々な人たちがいて、その規範(あるべき論ないし期待)というのは一様ではありえません。コミュニティに属する人々の多数がその企業のサービス(もっと言うと会社のミッション)にプラスの意義を感じ、これを迎え入れる意思が表明されたとき、制度が動きます。これをどのように実現していくのか、このプロセスを真剣に考えるのが、イノベーションにおけるコンプライアンスの神髄だと思います。

これは、日本における既存事業者がコンプライアンスとして考えているものとずいぶん異なる枠組みであると感じられると思います。そして、このようなコンプライアンスが本当に成立しうるのかと疑問に思うかもしれません。

僕自身、イノベーション法務に関わるようになってから、イノベーションとコンプライアンスの関係というのを何年もの間ずっと考え続けてきました。そして、コンプライアンスの神髄とはなんなのかを考えながら、コンプライアンスが最も厳格な産業だと考えられている金融機関のコンプライアンスを実践しています。面白いことに、特に海外では、コンプライアンスが最も厳格であると思われている金融の世界に、次々とイノベーションが起こるのです。これはいったいどういう事象なのか。

ある人は、「イノベーションは法律の抜け穴を突く」という形でイノベーションとコンプライアンスの関係を説明しようとします。僕はこの考え方は物事の一面しかとらえておらず、またその捉え方もあたかも正道でないことを行う活動としてイノベーションを捉えている点で不適切であると思います。

そうではなく、もっと広い意味でのコンプライアンスを企業市民としてどのように実践するか、イノベーションを標榜する企業に社会が求めている規範をどのように実現していくのか、このプロセスを戦略的に実践することがイノベーションを標榜する企業にとってのコンプライアンスのあり方であると考えます。

その方法論は複数ありますが、上記のようなコンプライアンス概念を持つにいたっておらず、それを実現する先例や方法論が十分検討されていない点に、日本のイノベーションの弱点があると思います。これは、西海岸で世界を変えてきたサービスイノベーションで実践されてきた方法論であり、僕が知る限り、まだ形式知として普及しているものではありません。けれども、Googleが実践し、Facebookが実践してきた戦略、更に近時ではAirbnbやUberが実践しようとしている戦略は、法務的な観点から見ると、まさにこのようなものとして体系的に整理することができます。

こんな立場からインタビュー記事を構成させてもらいました。記事にあるいくつかの提言に対するコメントはもちろん、イノベーションとコンプライアンスの関係についての以上の考え方についての皆さんのコメントもお待ちしています。

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