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2016.05.04

FinTechの本質と日本におけるFinTechの挑戦(前編)

先日セミナーで地域金融機関様向けに「FinTechの本質と日本におけるFinTechの挑戦」というテーマでお話させていただきましたものをここでも共有させていただきます。

森・濱田松本法律事務所の増島でございます。本日は、「FinTechの本質と日本におけるFinTechの挑戦」というテーマで、FinTechの総論部分についてお話ししたいと思っております。ご参加者は地域金融機関様が中心とのことですが、皆様の目先のご関心としては、FinTechをどう使い、どう対応していくのか、もしくは地域金融をFinTechにどう繋げていくのか、といったところかと思います。ただ、目先のFinTechノウハウ活用を考える前に、そもそもFinTechの事象が何を意味しているのか、産業全体へのインパクトはどのようなものかという全体像や本質を理解していただくことが重要かと思っています。金融庁や各国金融当局も真剣に取り組んでいるテーマです。FinTechに対する正確な認識、目線をまず持っていただくことが大切です。

私の肩書きが弁護士なので、法律の話かと思われるかもしれませんが、本日は法律の話はほとんどしません。より戦略やビジネスに近い話が中心になります。

 

FinTechの歴史はリーマンショックが起源

まずは、FinTechの歴史についてお話しした方が分かりやすいでしょう。日本では、去年の3月くらいに急に出てきたテーマです。もともとは金融庁の決済に関するスタディ・グループ[1] の中間整理の中で、FinTechという言葉が使われました。それで金融業界の皆さんがザワザワとなったわけですが、イノベーションの世界ではITと金融の融合は昔から行われていたのですね。例えば、1995年~2000年代初めの第1次インターネットブームでは、ネット証券が台頭しました。個人チャネルがほとんどネットに移ったわけですが、銀行や保険にはあまり影響はなかったと思います。証券に比べて、銀行や保険の規制の厳しさ、免許の取りにくさが影響しているかなと思います。規制があるからその程度の影響で収まったとも言えるでしょう。

では、今回のFinTechは何が違うのかというと、背景の一つとしてやはりリーマンショックが大きいと言われています。日本はリーマンショックの傷が浅かったため、あまり感じられないかもしれませんが、世界では激しい金融収縮がおこり、不採算ビジネスのリストラで切り捨てられたのが中小企業や個人の中小所得者層でした。この切り離された人たちの金融機関に対する不信感から、他にアクセスできる金融がないかというニーズを顕在化させ、欧米を中心に進化してきたのです。また同時に、既存の金融機関で特にIT部門のスタッフの多くがリストラされました。ここで出てきたエンジニアたちが、自分たちで新しいテクノロジーを使った金融サービスを作り、中小企業や中小所得者層の個人に対して新しいサービスを提供しようという構図が出来上がったわけですね。

この構図のもとで、大衆を味方につけるのがスタートアップによるイノベーションのいつものパターンとなるわけです。規制があるから大丈夫だと、当初既存の欧米の金融機関は高をくくっていましたが、こうした既存の金融機関からアクセスを拒絶された大衆がFinTechスタートアップを支持し、それが大きなうねりとなり規制当局も利用者利便の向上を御旗に掲げてこれを支持した結果、既存の金融機関の業務領域を徐々に侵食してきているというのが現状です。日本では最近までFinTechがあまり注目されていませんでしたが、欧米で盛り上がってくると、当局サイドとしても日本の金融市場にFinTechのサービス技術が入ってきた時のインパクトへの危機感、対抗するサービス推進の必要性を認識し、改革を押し進めているということです。

 

FinTechとは金融サービスの再構築を図る取組

FinTechという用語そのものは、投資のマーケティング用語だと理解しております。これは、米国の西海岸では、新事業創出における常套手段になっているのですが、一つのKeyWordが示す新しいテクノロジーによって、既存の業界の人たちがザワザワとなって、資本家から新規参入者にお金が出てくるという構図です。言い方は若干よろしくないですがマッチポンプ的、彼らの言葉を使っていえば「自ら未来を創る」仕掛けであるとも言えるでしょう。

では、FinTechとは一体何を示しているのでしょうか。一言でいうと、『FinTechは、最新情報技術をフル活用した金融サービスの再構築を図る取組である』とご理解いただくのが良いのではと考えております。既存の金融機関は、金融サービスを提供するには、重いシステムと店舗と優秀な人たちというリソースが不可欠だと信じているのですが、この業界にいなかった人たちからすると「本当にそれは必要なのか?」と思っているわけです。

金融が扱っているものは、彼らかするとただのデータに見えているのです。データを扱うのに、彼らの持っているテクノロジーをもってすれば、そんなにたくさんの人、店舗、重いシステムが必要だとは思わないんですね。

 

金融を“レイヤー”ごとに捉える

彼らはインターネット屋さんで、頭の中には機能やソリューションを横で切って考える「レイヤー(層)」という概念を持っています。所謂、インフラレイヤー、プラットフォームレイヤー、アプリケーションレイヤーなどと呼ばれるものです。金融の世界をレイヤー的に捉えると、金融商品のメーカーはコンテンツプロバイダー、つまり製造レイヤー、アプリケーションレイヤーというふうに見えているのです。彼らにとっての金融業は、リスク情報を扱う産業であり、リスク情報は、信用リスクや事業リスク等色々あるものの、将来の一定の事象の発生に関する確率的な表現なのだと考えています。

例えば貸出を想定すると、借入人の財務データなどは、モバイル端末やクラウドコンピューティングがあれば、今までとはケタの違った情報が集められると考えています。集めた雑多なデータをきれいに解析することができれば、ビッグデータ解析技術は日進月歩で進んでいるわけで、リスク情報としてより有益な情報を得られるという発想になります。

実際に、皆様が業務でご覧になっているのは財務諸表という伝統的なデータですが、例えばトランザクションレンディングといわれている手法では、EC(Eコマース)に出店している人たちにお金を貸す時は、そこで売り買いされている全てのデータを集めて分析しています。会計基準という、敢えて申し上げますが一定の「バイアス」に基づいて出てきた財務諸表よりも、事実をそのまま語るトランザクションデータの方が、より良い信用分析が可能であり、それをもとにすればより良い金融商品(ローン条件など)を作れるのではないかと彼らは考えているわけです。

 

金融の販売は“検索ビジネス”と同じ

プロダクトがあれば、販売のレイヤーが存在します。販売レイヤーはFinTechの人たちからするとマッチングビジネスと捉えています。まず顧客からデータを取得し、取得したデータで顧客の個別のニーズのほか、こうした個別のデータを抽象化して解析することで分かる顧客層のニーズといった、一般的な嗜好も分析されます。こうしたデータを駆使して分析された顧客の嗜好に対し、金融機関が提供する商品・ソリューションを提供します。ニーズが個別の顧客ごとに明確なので、購入に至る可能性(コンバージョン・レート)は高まりますね。購入に至れば手数料をもらうというビジネスモデルができるわけです。この構図は、実はITサイドでは見慣れているものなのですね。インターネットのプラットフォームレイヤーにおける“検索ビジネス”そのものだからです。

FaceBookやGoogleは、広告主に対して、顧客のニーズがどこにあるか知ってるよ、商品を売りませんか、広告しませんか、という手数料ビジネスをメディアの領域ですでに成し遂げてきました。メディアでの成功体験を金融業界に横展開しようとしていることになります。

もう1つ重要なレイヤーとして、インフラレイヤーがあります。金融ビジネスを成り立たせるために必要な基盤、セキュリティ、認証技術、不正検知技術等は、彼らにとってはインフラに見えていて、このインフラレイヤーを狙うFinTechというものもあるわけです。

 

FinTechの考え方を理解することが重要

FinTechサイドの人たちは、金融機関が行っているサービスを横に切って、それぞれをレイヤーとして捉えて、ITとして置き換えてビジネスを考えてようとしているのだという事実を、まずは正しく理解することが必要です。彼らが実現可能だと考えていることは、すでにメディアの世界において過去10年で実現してきたことです。昔はチャネルを独占してきた新聞社、テレビ局、雑誌が軒並み低迷しているのが現実です。彼らは金融業界でも成功すると考えているのです。

今まで金融サービスを提供するには、かなりのリソースが必要だと思われてきました。重いシステム、優秀な人材、多くの店舗などです。ただ、彼らからすると、ITを使えば全て置き換えられるのではないかということです。少なくとも今までとはけた違いの低コストでこの置き換えを提案することができます。従来型の金融機関は、例えば店舗があることによる対面での安心感、といったメリットを強調するわけですが、果たしてそれはFinTech企業が提供する価格の10倍の価格を払ってまで顧客が欲しかったメリットなのでしょうかとFinTech企業は問いかけているわけです。以上、縷々申し上げましたが、要するに彼らはITの最新技術を使って金融ビジネスの再構築が可能なのではないかという仮説を持っており、この仮説を実証するべく活動しているのだと捉えていただけたら良いのかと思っています。

 

AIによって金融人の評価基準が変わる

人工知能(AI:Artificial Intelligence、以下AI)とFinTechの関係についても、よく議論になります。AIがないとFinTechは成り立たないのか?と質問に対しては、答えはNOです。例えば、データを大量に集めて、ビックデータ解析をするというだけであれば、AIがなくてもできるわけです。

ただ、AIは破壊的な技術であるのは間違いありません。AIは多くの分野で、今まで必要だった程の人を必要としなくする可能性が高いといわれています。つまり、人がやるよりAIに任せた方がずっと良いという状態になっていくでしょう。一方、AIには得手不得手がはっきりしているのです。特に経営に携わる方たちにとっては、AIに全て置き換えられてしまうと考える必要はないと思います。

AI、特に今たいへん盛り上がっているディープラーニングの得意分野はパターン認識[2]、もっと言えば特徴量の自動抽出なのです。パターン認識とは、私を含めて皆様も経験されてきた“お受験知識”というものも含まれますね。知識を蓄えてその質問に対して答えるという技術です。頭が良いという指標になってきたパターン認識が、コンピュータにとってはお手の物なわけです。金融機関のスタッフの評価も、今後は大きく変わっていく可能性が高いと思います。

 

ブロックチェーンの最大のテーマは“情報共有”

ブロックチェーンと従前のRDB(リレーショナルデータベース )は何が違うのでしょうか?大きな特徴の1つとして、ゼロダウンタイムのシステムを安価に構築できるということが挙げられます。

金融機関のシステムは決して止めてはいけないという義務があり、それを実現するために、これまで多くの人と金を注ぎ込んできたわけです。このシステムコストを劇的に低下させるブロックチェーンの可能性は、金融界のニーズと合致します。

ただ、ブロックチェーンの最大のテーマは、複数の金融機関が情報を共有することで、決済システムとして価値を見出そうとしていることだと考えています。もちろん、技術的には可能かもしれませんが、むしろ社会慣習や制度などの面で色々と課題が出てこようかと思います。

いずれにせよ、ブロックチェーンはトランザクションに注目するもので、事務処理の観点からは効率化が期待できることになります。現在の金融機関では残高を見ていますが、ブロックチェーンはトランザクションベースで管理をしており、その累積が残高であるという概念をそのままシステムとしています。またブロックチェーンの際立った特徴として、複雑な取引をセキュリティを確保しながら自動締結、自動執行が可能という点があります。例えば、ローンを約定返済するだけなら今までの仕組みで大丈夫だとは思いますが、担保実行というものも含めると全て同じブロックで処理できてしまうことになります。ここまで出来ると、モニタリングや回収などの事務作業が不要になってくるのではないか、というのがブロックチェーンが提示しているバリューだと言われています。。

もちろん、今の例のような担保実行の実務では、実際にはウェットな世界があるわけで、実際の消費者にとって自動執行されていくドライな世界にどう対処していくのかという問題があるのは事実です。自動締結・自動執行を実現してしまうと現実の社会は混乱するでしょう。この仕組みが与える社会への影響を見極め、どう通用するのか整備する作業が今後必要となってくるわけです。

現状は、AIやブロックチェーンが無くてもFinTechはできるけれども、AI、ブロックチェーンがあると、ビジネスが大きくスケールする、すなわち指数関数的な成長につながると理解していただければと思います。

ただ、それぞれの技術には得意不得意があります。制度的な手当てもできていない中で、たちまち全部変わってしまうということではない、ということは申し上げておきたいと思います。

[1] 金融審議会「決済業務等の高度化に関するスタディ・グループ」

[2]NN:Neural Network パターン認識は、人工知能(NN)の得意技であり、金融のデータ解析には応用が利きやすいといわれている。例)投資(過去の値動きを特徴量として捉えて将来の値動きを予測)、保険不正検知、保険事故予測

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