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2016.05.04

FinTechの本質と日本におけるFinTechの挑戦(後編)

前編では、FinTechの歴史や、産業に与える影響について概要をご説明しました。後編では、金融業界への影響について、もう少し詳しく考えて行きたいと思います。

 

金融業界でもフラット化・分権化が進む

FinTechで金融業界に何が起こるのか、どう影響するのか、とよく聞かれます。金融というのは全ての産業のインフラであることを考えると、FinTechの行く末を考えた場合に他の産業がどのように動いていくのかを併せて考えていかないと片手落ちになってしまいます。

産業全体としては、モノの情報化が進みます。モノの情報化とは、モノの基本的な価値を所有していること、すなわちオーナーシップに求めるのではなく、利用したい時に利用できること、すなわちアクセシビリティに求め、モノは所有していなくてもこれにアクセスできる状態が確保されていればよいとの考えを基礎とします。そのうえで、モノないし施設の所有者がその稼働状況をインターネットにリアルタイムに開示し、モノないし施設の需要者とマッチングするプラットフォームがあれば、これでモノに関する経済活動は情報に関する経済活動として捉えることができるという考え方です。シェアリングエコノミーと呼ばれる現象がその典型ですが、これは供給者と需要者が従来のような事業者と消費者という固定的な関係に立たないという意味で非中央集権的な供給モデルといえます。

同様のことがエネルギーの分野でも進みます。エネルギーは今まで海外から購入するほかなかったわけですが、それぞれが太陽なり風なりの自然エネルギーで発電し、蓄電するとともに、余剰分を他者に融通するスマートグリッドが発達すれば、エネルギーについても情報化、すなわちアクセシビリティにその価値が移っていきます。電力会社がエネルギーの供給を差配する中央集権的な仕組みから、エンドユーザー同士が余剰エネルギーを融通する非中央集権・分散型の仕組みに移行していくわけです。

このように、産業それぞれの分野で分散化・非中央集権化が進んでいる中、金融だけが中央集権化のままで残っていけるのかという疑問がわきます。FinTechの動きというのは、従来の各金融機関が利用者に対して垂直的にサービスを提供するという形態からの転換、分散化・非中央集権化を進めるものだと言えるでしょう。最近話題の仮想通貨を支える技術であるブロックチェーンはその典型です。分散型の決済システムやその他の金融サービスでの分散型モデルの採用によって、金融サービスも中央集権的なものから分散型・非中央集権的なサービスモデルに転換していく可能性があります。

金融というのが経済の血液、すなわち各産業のプラットフォームとして位置づけられる産業であることからすると、各産業の分散化・非中央集権化が進めば、金融ビジネスについても同様のモデルになるであろうというのは、 “理の理(ことわり)”ではないかと思われます。

 

「厳格な規制がある金融分野は変化しない」という見解について

一方、金融業界には厳しい規制があるので、他の産業で起こっても金融では起こらないのではないか、という議論もあります。このような見解が正しいかどうかを検討するためには、金融に関する規制をはじめとする制度が、どのような仕組みでできていて、どのような力により変化していくのかについての構造を正しく理解することが必要です。

金融規制を考える論点は3つあります。まず1点目は、個々のサービス提供に当たっての利用者の保護という観点です。これは他の産業における業法と同じく、サービス提供が利用者を害しないように事業者を規制するという構図です。これは、利用者と事業者の利害の調整という構図のもとでの規制といえ、事業者が政治力を駆使すれば、既存の制度が温存されるであろうという予想が立ちます。

2点目に、金融が他の産業のプラットフォームであるということから導かれる規制根拠です。すなわち、他の産業のプラットフォームである金融サービスを提供する事業者は、個別の利用者の保護ということを超えて、プラットフォーム自体が適切な形で運営されることを確保する責任があるという考えです。「金融システムの維持」であるとか「金融の円滑化」といったコンセプトを根拠とした規制は、金融のこうした産業プラットフォームとしての側面を見据えたものといえます。これは利用者と事業者の利害の調整という目線を超えて、国内産業の振興そのものを目的とするものといえ、国益とよばれるものをいかに追求するかという国家戦略に関するものなので、事業者の政治力が及びにくい世界と言えます。

最後の3点目は国際金融規制です。これは国内の民主的な体制を超えて、国際政治の中で各国が自国の国益追求を目指して国際金融のルールの枠組みを決定するという世界です。ここで決められたことは国際的な合意として、国際協調という名目のもと、民意がどうであれ、さらに事業者がどのような意向を持っていようとも、従わなければならないものです。

現在起こっているFinTechに関する日本の取組みは、以上のうちの2番目の文脈で取り組まれています。すなわち、日本の産業振興、国益増進のためには、既存の金融に関するゲームのルールを変えるFinTechで他国に先行され、力をつけたFinTechが日本に流入するということになると、検索の分野におけるGoogle、コミュニケーションの分野におけるfacebookやtwitterのように、国内マーケットを多くを海外勢にとられてしまいます。金融は産業の基盤であり国力の源泉ともいえますので、この分野でGoogleやfacebook、twitterのように国内市場の圧倒的な金融プレイヤーが登場するようなことが起こりますと、国益に対する影響は甚大です。

このような文脈で議論がなされると、産業全体ないし国益のためにどのような規制とすることが必要かという議論になりますので、利用者と事業者の利害調整、なかんずく業界の政治力という文脈で変化を押さえられるものではないということは、お分かりいただけるのではないかと思います。

 

国際規制を見据えた動き

金融規制の動態的な観測は、これにとどまりません。

FinTechに先行する先進諸国は、自国のFinTechサービスのグローバル化を図り、自国の国力の増進を図るため、国際金融規制において政治力を行使しようとするでしょう。国際金融規制のルールメイキングを主導することは産業、国力の話ですから、国同士での競争が起こります。競争に勝たなければ国が衰退してしまうので、金融の規制をどうやって作っていくかは、国家間の競争を踏まえなければならないことになります。日本はこの分野はあまり得意ではなく、英米がうまく振る舞って世界のルールを主導し、日本はこれに追従するという構図です。バーゼル規制や反マネロン・テロ資金供与対策規制などがその典型です。政府自身を含め、国内の誰もが望んでいるわけでもないのに、一定の規制を国内導入しなければならないという構図が、金融規制の場合には起こります。

やがてこうした動きとなるであろうことが見えている政府としては、こうした流れとなったさいに国際的な議論を主導することができるよう、国内の産業構造をあらかじめ動かしておかなければなりません。こうした文脈では、全銀協や地銀協が何を言おうと関係ありません。

今、金融庁がやるべきことは、既存のやり方を温存することではなくて、これから起こるであろう競争をアナウンスし、既存の金融ビジネスの革新を支援していくということでしょう。

 

規制分野のイノベーション

このように政府は国力の維持増進のためイノベーションを推進していく立場にあるわけですが、規制とイノベーションはもともと相性がよくありません。イノベーションというのは、誰も考えたことがない新しいことです。規制を作る人は現在の事象をもとに規制を作りますので、誰も考えたことがないイノベーティブな事業モデルは、法令が想定したものではありません。想定したものではなくても法令を適用しなければならないわけですが、これは解釈と呼ばれる作業を通じて行います。法令の公権解釈の権限は各業法を所管する官庁、さらに言えば国益の増進という国の大きな目標とは遠い立場にある、日々の問題を解決することをミッションとしている担当部門の担当官が持っています。担当官は我々サラリーマンと同様、家族があり自らの生活を支えなければなりません。見たことも聞いたこともないビジネスモデルを提示され、これが適法かどうか判断しろといわれれば、法律を頑張って解釈して適法であるという理屈を創造的に考えるよりも、前例がないのでダメであると回答することが彼らの最適戦略にかなっています。もし創造的な法解釈によってOKであると判断し、あとでそのサービスに問題が生じれば、担当官が責任を追及されるわけで、なぜそのサービスの推進に自ら何の利益もないにもかかわらず、自らの生活の安定を犠牲にしてあえてリスクを取ってそれを推進するような判断をしなければならないのか、という話です。こうした話は官僚たたきという文脈で言われることがありますが、サラリーマンである皆さんも同じ立場に置かれれば間違いなくそのように振る舞うはずです。いいとか悪いとかの話ではなく、そういう構造にあるということがポイントでして、こうしたことが世界各国で起きています。

そのような中、各国当局が今試みているのがレギュラトリーサンドボックスという手法です。既存の規制がある中で、イノベーション推進のためにサンドボックスを作り、サンドボックスの中でまずはサービスを実験してこれが利用者の利便に役立つものか、問題が起こるものではないかを検証します。実験を通じてサービスサイドでは問題があれば改善しますし、規制サイドでは現行の規制に不都合があればそれを改善します。こうして新たなサービスを生んでいくための仕組みをつくろうというものです。

サンドボックスのアプローチは、従前より、大企業が新興勢力によるイノベーションに対峙し、自らイノベーションを起こすための方策の一つとして活用されていました。大企業がイノベーションを起こせないのは、現在収益をあげられる事業があるからです。イノベーションは大企業の既存事業を侵食しますので、通常の決裁ラインでイノベーションに関わるプランを上げていっても、既存事業の部門長によりつぶされてしまいます。これは部門長が悪いのではなく、組織がそのようにできていることによって必然的に生じるのです。これを克服するために、社内でイノベーションに最もコミットしなければならない人、すなわち会社の長期的成長にコミットしなければならない社長やCEOなどの直轄組織として、既存の決裁ラインに潰されないようイノベーションの種を育てていく手法です。

このアプローチを、規制当局部門に持ち込もうとするというのがレギュラトリーサンドボックスの発想の根幹です。現在、イギリスやシンガポールなどのFinTechの先進国が具体的な施策に落とし込むべく準備を進めています。

 

ようやくプレーヤーが揃ってきた日本

FinTechにおいては、日本はリソースが足りないという状態だと思います。イギリスなどは強いです。金融業界、テクノロジー、法律などの専門家を集めて、知見を収集しようとしています。日本は単独では戦えないので、誰と組むのかというのを真剣に考えるべきです。政府だけが考えることではなくて、企業・金融機関側も自分ができるところは何か、どのようにコラボレートできるかということを真剣に考えなくてはなりません。

リソースすなわち人材数は全く足りていませんが、必要なプレイヤーのカテゴリーは、ようやく最近になってそろってきたなと思っています。プレイヤーとしては、FinTechにコミットする①政府、②政治家、③金融機関、④ベンダー、⑤スタートアップのそれぞれの団体が必要です。政府は金融庁と経産省ががんばってくれています。政治家は昨年12月に自民党にフィンテック推進議員連盟を作っていただきました。金融機関は全銀協さん、地銀協さん、証券業協会さん、生保協さん、損保協さんなどがカウンターパートになっていただきたいと考えています。ベンダーさんも最近FinTechの団体ができました。それから最も重要なスタートアップについてもFinTech協会というのができました。

海外の例を見ますと、実はこれではエコシステムが完成しないのです。金融という世界はやはり独特で、業界というものの壁が高い。また規制の壁も高く、既存金融業界、政府、政治、スタートアップの間を架橋していくための触媒の役目を果たす団体が不可欠なのです。これがなかなか出てこないので、何とかしたいと考えておりまして、海外の事例をよく研究して同じ思いを持っていた人たちを集めまして、FINOVATORSという非営利団体を作りました。

イギリスにはInnovate Financeという団体がいて、シティ郊外のキャナリーワーフというエリアにレベル39というFinTech集積地を作っているのですが、これをお手本にしまして、FINOVATORSは丸の内の銀行協会ビルの14階にFINOLABと呼ばれるオフィスをもちまして、ここにFinTech企業と既存の金融機関の皆さんを集積するというプランで活動しています。FINOLABはFinTech企業のインキュベーションオフィスとしての機能と、既存金融機関の皆さんとのミートアップのためのイベントのコーディネーション機能を持っています。三菱地所さんと電通さんにご協力をいただいておりまして、場所とコンテンツ、マーケティングの専門性を発揮していただいています。FINOVATORSは金融、テクノロジー、スタートアップ実務、投資、法務、会計などの専門家が個人として集積しておりまして、メンタリングを通じて有力FinTechスタートアップの数を増やすことと、専門知識を活用した政策提言、海外の同様の団体との連携等を担当しています。それぞれの団体が手が届かない、エコシステム全体をいかに円滑に回すかという観点からの活動ということになります。

イギリスと比較すると、まだまだ道半ばではありますが、これで大きな枠組みは整ったのではと考えています。とにかく、これから海外の人たちがどんどん攻めてくるわけですから、日本が沈んでしまわないこと、みんなで戦うということを共通意識とすることが大切です。

こう申し上げますと海外シフトをひいていると誤解される方もいますが、そうではなくエコシステムをどう回すのかということが重要でして、そのためには海外の人たちとも協力しながら、他方で日本は日本で核となるものをもっておかないといけないということです。我々は日本円で暮らしていますのでこれをどう守るかが大事ですが、そのことはドルやユーロを敵視するということではないのと同じです。国際協調をしていくことでFinTechが生む新しい金融のパラダイムを花開かせていくのが、我々のミッションです。

 

地域金融機関

地域金融機関がFinTechにどう対応すれば良いのか、というご質問を頂いていましたのでお答えします。

まず、地域金融機関の皆様が、今自分が持っているアセットの中で有効なアセットは何かを考えることが大事になると思います。おそらく地域金融機関の皆様にとって最も重要なアセットは、地域にコミットするというポジションを取ることによって得られているさまざまなアセットです。これには地域住民や地場企業についての資産状況や、これにとどまらないソフト情報、信用情報が含まれますし、地域の中では優秀な人材を内部に持っていること、そして何より地域における信用の基盤として機能していること、こうしたものが有機的に一体となっていることが地域金融機関の強みでして、スタートアップ企業であれメガバンクであれ、地域金融機関の皆さん以外の人は一朝一夕には持ちえないアセットであるわけです。

このアセットをどのように活用していくか、ということを考えていかなければならないわけですが、テクノロジーの活用という目線から見たときに重要な点が2点あります。

1つは、供給者目線では絶対に成功しないということです。ITは常に需要者の目線でないと成功しません。これはITビジネスがプラットフォームビジネスであることに関係しています。金融というのも本来プラットフォームビジネスなのですが、現在の金融サービスは、これまで人々が金融にアクセスするチャネルが限定されてきたことから、ややもすると供給者の目線でビジネスを見る傾向があります。自分が売りたい商品を売る、楽に儲かるビジネスのみを選別して行う、こうしたややもすると既存金融機関が陥りがちな姿勢を打ち破ろうというのがFinTechの真骨頂です。要すれば、FinTechを活用する、FinTechを手掛けるということは、既存事業の単なる延長線上にはない可能性があるということです。FinTechがイノベーションと言われる所以です。

2つには、まずは解決すべき課題があって、そのソリューションとしてテクノロジーがあるということです。テクノロジーがあって、これをどうやって使うのか、ということではFinTechは絶対に成功しません。つまり、地域金融機関のFinTech対応といった場合、なによりもまず、何が課題なのか、ということを明確にしなければならないということです。

私から見ますと、地域金融機関にとって最も喫緊な課題は、自らの最大の強みであったはずの先ほど申し上げたアセットがどんどん劣化しているということにあると思います。地域の荒廃と言い換えてもいいかもしれません。経済圏というのは中核となる地方都市があって、そこに様々な経済活動があり、この活動に伴う様々なストーリーがコンテンツとなって経済圏に属する人たちを引き付け拡大するという性質を持っています。その質が、いろいろな要因があると思いますが、どんどん劣化しているというのが最も大きな課題だと思います。

これをどう解決するのか、という観点からテクノロジーを見ますと、実は現在のテクノロジーはこれに対するソリューションを相当程度提供できるのではないかというのが私の考えです。人口の問題、新規事業創出の問題、住民の貧困化の問題は、FinTechにカテゴライズされているテクノロジーやサービスを活用すると、その解決策が見えてきます。この先のお話は、問題意識を共有できる方でなければ、あまり響かないだろうと思いますので、本日は詳しくはお話しいたしません。ご興味がある方、自ら動く実行力がある方とは、ぜひこうしたお話をさせていただきたいと思いますので、お声をおかけください。

2つと申し上げましたが、両者は実は同じことを別の側面から表現しているに過ぎません。需要者にとって何が利益なのかということと、課題を解決するという目線、FinTechを手掛けられる場合にはこの2つが徹底されていないと、確実に失敗します。私は法律家なので不正確な言葉、絶対とか確実といった言葉はほとんど使いませんが、もうこれだけは間違いなく、堂々と「絶対」「確実」と申し上げます。FinTechへの対応が無駄な投資となるかどうかは、この点にかかっておりますので、よく心に刻んでいただければと思います。

逆に、この点をしっかり押さえていただければ、あとは各論の問題です。各論の検討に当たっては、やはりエンジニア人材はある程度内部に抱えておくということが重要でしょう。

注意すべきなのは、ここにいうエンジニア人材というのは金融機関のシステム部門の人たちとはエクスパタイズが異なる人たちであるということです。FinTech対応としてシステム部門を主担当に据えるという金融機関の方がまだ散見されますが、これですとうまくいかないでしょう。本日のお話を聞いていただければお分かりのとおり、FinTechというのはテクノロジーの話をしているのではなく戦略、経営のあり方の話をしているからです。

FinTechという一連の活動が何を目指していて、どこに進もうとしているのか、地域金融機関の皆さまがそのなかでどのように対応していけばよいのか、ということをお話しさせていただきました。皆さまの今後の事業に少しでもお役にたてれば幸甚です。

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