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2016.05.04

FinTech領域のイノベーションのために絶対に知っておかなければならない規制のお話(後編)

 

(1) イノベーション実現のための法創造の必要性

イノベーションの再広義の定義として、something new(何か新しいもの)というものがあります。

イノベーションはその本質として、これまで誰も考えたことがないアイディアを内包することになります。この「誰も考えたことがない」という「誰も」の中には、政府ないし監督者が含まれますし、国際金融規制組織とその中で規制の設定につき協議する人々が含まれています。

規制は、その根底にある哲学(プリンシプル)のレベルでは網羅的なものです。したがって、このプリンシプルは、新たなサービスに対して一定の評価をもたらすためには有効に機能する可能性があります。他方で規制は、具体的にどのような基準でコントロールすればよいかという個別的な規制のレベルでは、目の前に存在するサービスの実態を踏まえて検討することなく設計することはできません。その結果イノベーション、つまり「誰も考えたことがない」新しいサービスに対する具体的な規制は、既存の規制体系のなかには本質的に存在しないことになります。

そこでは、新しい法創造が行われなければならないのです。

 

金融サービスが国内法的に許認可制のもとにあるということは、政府が承諾した範囲内でビジネスを行わなければならないことを含意しています。FinTechによる革新的なサービスについては、許認可制における具体的な政府の承諾はもちろんのこと、この承諾を与える枠組み自体が、そのサービスが存在しうることを念頭に置いていないということになるはずであるため、このサービスを世に出していくためには、この法創造の過程を経なければならないことになります。

ここにいう法とは、具体的な立法ということに限らず、政府における監督権限の行使方法に関するルーティンや、さらには金融分野における慣習のようなものが含まれます。あらゆるイノベーションは、それがイノベーションの名に値するものである限り、既存の事業者により形成された商慣習を打ち破ってサービスを確立しなければならず、最も広い意味での法創造の過程は必然的に伴うものになります。そのなかでも、とりわけ規制業種については、これに加えて政府セクターにより構築された規制体系の変革のための活動が必要となり、金融サービスの革新を目指すFinTechもその例外ではありません。

 

(2) 金融分野のイノベーションにとっての法創造の特殊性

FinTechが通常の規制業種と比べて更にチャレンジングである要素として、この「法」のなかには国際金融規制が含まれており、一連の法創造の過程の中には、国際金融規制の創造が含まれていることが挙げられます。噛み砕いて言えば、国内金融規制を変更しようとしても、規制の枠組み自体が国際金融規制のもとに構築されているので、国内の規制改正のみを議論していても埒が明かない、ということが起こりえるのです。

FinTechと規制との関わりを考えるにあたっては、前編でご説明したような構造が金融規制に横たわっていることを踏まえる必要があります。そして、FinTechサービスを世に出していくということは、以上の規制構造のなかに存在している既存規制体系のもとに、自らのサービスの居場所を創りあげなければならないということを意味しています。

 

(3) 政府にとっての含意とこれを踏まえた民間の戦略

 

同様に、FinTechによって既存の金融秩序を揺らされている政府セクターにあっては、FinTechの潮流を活かして自国の国際金融秩序におけるポジションを高めていこうとする他国政府の試みとのはざまで、以上のような規制構造の中で自らのサービスの居場所を確保しようと戦略的に取り組むFinTech企業に対し、どのように振る舞うことが自国の国際金融秩序におけるポジションを維持し、さらに高めていくことにつながるかを戦略的に考えて行動しなければならないことになります。

特に、金融が、産業にとっての血液でありインフラであるために、国益の増大をミッションとする政府がプリンシパルとなって、許認可制度のもとに民間セクターをコントロールする規制体系を採用していることからすると、FinTechサービスを世に出していこうという民間セクターによる試みと政府セクターには、協働関係が成り立つ余地があることは強調されてよいのではないかと思います。

すなわち、FinTechを活用した革新的な金融サービスが世界中で出現し、それぞれが既存の金融業界の秩序を再編成することを試みているなかで、FinTechを梃子として自国の金融産業におけるシェアを他国金融サービスが侵蝕するとなれば、これは国益にとって損失となります。そのような事態を作り出さないようにするためには、自国から生まれたFinTechサービスを、いかに早くそのサービスを自国展開させ、サービスの質を磨かせて、国内マーケットのシェアを獲得させるか、ということを政府は考えなければならないはずです。

更には、自国から生まれたFinTechサービスが、他国の金融サービス市場のシェアを獲得することになれば、それ自体の成長もさることながら、金融が産業のインフラであることによるレバレッジ効果を期待することができ、国益を大いに増大させることになるのは間違いないでしょう。

政府は、FinTechの潮流がかようなものであることを見越して、国際金融規制の舞台で戦略的に行動する必要があります。政府がこのような活動により国益を増大させていくためには、一にも二にも、国内にFinTech企業が存在しなければ始まりません。ここに政府が、FinTech企業と協働することが必要である理由が存在します。

 

以上はもちろん、金融規制の表向きの建前との関係では、強調することが難しい立論であることは承知しています。

政府はあくまでも、利用者利便の向上の実現を旗に掲げて行動しなければなりません。FinTechによるイノベーションは、利用者による金融サービスの体験を劇的に向上させるものであるとして、これを総論としては支持しつつ、例えばサイバーセキュリティなど、FinTechにより拡大するかもしれない金融システムの脆弱性を拡大する効果については、個別に適正に対処するというポジションをとって、ものごとを進めていかなければならないでしょう。

けれども、この立論は、政府のFinTechに対する向き合い方を国内外に示すために公式に採ることができるポジションステートメントであって、国際金融監督の規制体系を向こうに回した国家戦略は、こうしたナイーブな議論に終始することは許されないはずです。

民間セクターは、既存金融機関であるとFinTech企業であるとを問わず、政府はそのミッションとの関係で、FinTechに対して、上記のような戦略のもとで臨むはずであるということをも踏まえて、どのようにFinTechと向き合うか、更に政府と付き合っていくかということを考えなければならないのと思います。

少なくとも、グローバルに活動する金融機関や、グローバルな事業展開を構想するFinTech企業は、こうしたスケールでFinTech戦略を描いていることは間違いないはずです。

 

日本のFinTech企業、既存金融機関、そして政府関係者が、以上のようなゲーム構造にあることを正しく理解して、FinTechによる国益の拡大を共通目標として、それぞれの役割を最大限果たすことで、この目標を実現することができるよう、コラボレーションを進めていただきたいと思います。

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