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2015.11.26

グローバル起業戦略

海外起業にあたっての留意事項

このところ起業家の皆さんから、世界を見据えた起業について相談をいただくことが増えています。「どこに会社を設立すべきか」の記事でもご説明したとおり、会社は狙っているマーケットの所在国に設立するというのがセオリーですが、特にコンシューマ向けのスマートフォンアプリやウェブサービスの企業などでは、ユーザ数拡大のために、米国やアジアでの起業を検討されている起業家の皆さんが多いようです。

どこに会社を設立すべきか」の記事でも触れたとおり、マーケットがあり儲かるのであればそこには通常投資マネーがありますので、その意味でマーケットと資金というのはつながっています。米国でのベンチャー投資の規模の大きさを考えると、英語圏のマーケットを狙う皆さんが米国での起業を検討するというのは、とても合理的で自然な発想です。

コミュニケーションを含めた能力面での要件を満たしていれば、米国での起業というのは当然、選択肢に入ってくると思いますし、この動きは歓迎すべきことであると思います。中国や韓国、インドなど出身の起業家が山ほどシリコンバレーにいる状況を考えれば、日本人の起業家ももっとシリコンバレーに乗り込んでしかるべきという思いもあります。

米国での起業に際して、能力面以外でボトルネックになっているのは、ビザの問題です。ビザがないと米国に居住できませんので、この問題は深刻といえます。

デラウェア持株会社方式

米国ビザ問題の解決策としてしばしば提示されるのが、デラウェア法人を設立し、その下に日本法人を100%子会社としてぶら下げたり、日本に支店を設けたりする方法です。この形は、日本で開発を行うことで、ビザの問題を回避しつつ、資金調達のエンティティとしてはデラウェア法人を用いることで、米国のベンチャー投資資金を呼び込むという狙いがあります。

よく見かけるパターン

この方式をとる場合にしばしば問題となるのは、いざ資金調達をしてみると調達先は日本の起業やVCだったというパターンです。日本の投資家にとっては、日本のエンティティへの投資の方が、検討コストや予想外のリスクが低いということで、せっかく作ったストラクチャーを解消することが求められることがしばしばおこります。

ストラクチャーの解消といっても、これを税務上の問題を発生させることなく解消するのは、なかなか困難な場合があります。つまり、デラウェア法人の設立の際に起業家の皆さんやエンジェル投資家が取得した株式は、その後の開発によって相当価値が上がっているのが通常です。新しい投資家が入ってくるという段階なので、基本的にはその投資家からバリュエーションが提示されている可能性が高く、その場合には株式の価値がどれだけ上がっているのかも見えていることになります。そのバリューアップ部分(キャピタルゲイン)に対して課税を受けずに、このストラクチャーを解消する方法が問われることになるのです。

何が問題か

この際の税の問題をより難しいものとしているのは、課税を受けるという事実そのものというよりは、課税を受けるにもかかわらずその原資が取引から生まれてこないという点にあります。つまり、ストラクチャーの解消にあたって、デラウェア法人の株式を何らかの方式で日本法人の株式に切り替えることになりますが、この取引自体からは一切のキャッシュは生まれてきません。にもかかわらず課税が発生するというところに難しさがあります。特に、エンジェル投資家からシードマネーを調達している場合、この投資家に迷惑をかけずにストラクチャーを解消する必要があるので、起業家の皆さんだけの利害ではないというところがポイントになってきます。

どのようにストラクチャーを解消するかは、それこそもとのストラクチャーやデラウェア法人の資本構成次第です。つまり、どの場合にも当てはまる解消策というものがあるわけではありません。その都度検討する必要があるということで、これはつまりコストがかかるということと同義になります。

当初からデラウェア法人を設立する方式を採用することを考える場合には、そのストラクチャーを作ること自体のコストに加え、その後に日本の投資家から投資を受けることとなる可能性や、その場合にストラクチャーを解消するコストも考慮する必要があるといえます。

海外進出方式

上記の方式に対して、まだ得られるかどうかわからない資金を見込んで持株会社方式を採用するのではなく、まずは日本で設立して開発を進めてみて、海外から資金調達を受けられることが見込まれる段階で、そのためのストラクチャーを検討するという考え方があります。

これは、ストラクチャリングに伴うコストを、実際に資金調達が得られるようになる段階まで先送りにするという考え方といえます。

税務上の問題の解消策

日本で会社を設立し、米国での資金調達が見えてきた段階で、デラウェア法人を持株会社として創設する方法については、上記でご説明した税の問題を解消する方法が提案されています。これはDo it yourselfでできるものではなく、専門家が行うことですので、ストラクチャーの詳細は起業家の皆さんが承知しておく必要は必ずしもないと考えられますが、どのようなことが行われるのかの概要を知りたい方は、こちらを御覧ください。

どういう場合に使えるのか

ストラクチャリングの概要を見ると分かる通り、これはなかなか複雑な取引ですので、相応のコストがかかります(日本サイドだけでも最低数百万円はかかるといわれています)。逆にいうと、このコスト負担に耐えられる程度に海外からの調達規模が大きい場合に、初めて可能となる取引であるということです。

両者の比較の視点

どちらの方式を採用すべきかは、起業家の皆さんの置かれた状況などを総合的に検討する必要がありますが、客観的なポイントとしては以下の3点に留意する必要があると考えられます。

いつコストをかけるか

先にデラウェア法人を設立する方式は、デラウェア法人を設立・維持するためのコストをかけることになります。設立間もないスタートアップ企業にとって、こうしたコストの重みは無視しにくいものがあると考えられます。

先にデラウェア法人を設立した場合、その後に米国で資金調達ができる場合には、後工程にかかるコストは抑えられることになります。他方で、その後の資金調達が日本となった場合には、ストラクチャーの解消を求められる可能性が高いため、再度ここでコストがかかることになります。

これに対して、ストラクチャリングを後回しにする方式の場合、設立当初には日本法人のみですので、コストを抑えることができます。これは設立間もないベンチャー企業にとってはメリットと言えます。

この場合、その後に米国で資金調達ができる場合には、その段階でストラクチャリングのコストを負担することになります。他方で、その後の資金調達が日本である場合には、ストラクチャリングのコストを負担しなくて済むことになります。

海外からの調達の可能性をどの程度と見積もるか

海外から資金調達をするためには、デューデリジェンスもその国の言語で行われます。会社の様々な資料もその国の言語に対応しなければなりません。

事業そのものが成功する可能性や起業家の皆さんの資質に加えて、こうした追加的なコスト負担を強いられることも、海外からの調達の可能性に影響してきます。

どの程度の柔軟性があるか

先にデラウェア法人を設立し、その後の調達先候補に日本の投資家が挙がってきている局面は、おそらく、米国での資金調達が難しいということが判明している段階であると考えられます。これは多くの場合、日本の投資家からの投資を受けないと資金が尽きて会社がつぶれてしまうということになっている可能性があります。これはすなわち、ストラクチャリングの解消コストをかけない限り会社を存続させられないという状況に置かれているということを意味します。

他方で、デラウェア法人設立を後回しにして、海外で調達が可能な事業を育てられた場合、海外で調達が可能であるほど良い事業であれば、日本でも相応の調達が可能である場合が通常だと考えられます。したがって、その段階で、ストラクチャリングコストをかけてでも海外からの調達を行ったほうが、調達規模や条件の面、今後の事業戦略推進の面で望ましいということであれば、そのようにすればよく、それほどまでのことではなかったということであれば、ストラクチャリングコストをかけずに日本からの調達を進めればよいことになります。

その上で、また将来、ストラクチャリングコストをかけて海外から調達するというオプションは残っているということになるかと思います。

まとめ

世界のマーケットを狙う場合に、どのような起業戦略を立てるかは、起業家の皆さんの資質や置かれた環境下での条件を見定めた上で、冷静に検討する必要があります。またその際には、コストという側面を検討の対象から除外するわけにはいかないと考えます。

スタートアップは外部資金によって成長しますが、設立地選択に伴う追加コストを外部投資家からの資金をもって負担させてもらうためには、それが事業の成長との関係で十分に説得的なものである必要があるといえるでしょう。

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