開発委託・受託の権利処理は慎重に
技術系ベンチャー企業では、開発した技術をライセンスすることによって収益を得る事業モデルを採用することがあります。この場合、開発によって獲得した技術等の知的財産権が確実に自社に帰属するものとなっていることが必要です。
つまり、技術開発を行う際に、自社の従業員が開発する場合には従業員が持つことになる権利について、開発をアウトソースする場合には委託先が持つことになる権利について、それぞれ正しく理解し、対策を講じておくことが必要です。
また、他社からソフトウェアの開発を受託して収益を得るモデルを採用するベンチャー企業もあるでしょう。この場合は、受託者として留意すべき事項を押さえておく必要があります。
委託者の留意事項
まずは、プログラム開発を例に、委託先に開発委託を行った場合の対策についてご説明します。
ソフトウェア・プログラムを開発する場合、委託者との間で開発委託契約を締結することになります。 委託先はこの契約に基づいてソースコードを書くわけですが、このような契約があったからといって委託者にソースコードに関する著作権が当然に帰属するわけではありません。つまり、この場合著作権は委託先に帰属するというのがデフォルトルールです。
プログラム開発を委託している以上、明確な合意がなくても、黙示の合意または著作権法47条の2の規定によって、委託者は開発物を使用することはできますが、著作権が委託者に譲渡されているというためには、開発委託契約にその旨が明示的に規定されている必要があるというのが原則です。また、著作権の譲渡について合意しても、翻案権等は契約書で譲渡の対象であることについて明記しなければ、委託先に留保されているものと推定されてしまうので(著作権法61条2項)、プログラムを改変等することにも備えて、翻案権等についても委託者に移転されることを契約書に規定しておく必要があります。
さらに、委託先には譲渡することができないとされている著作者人格権*という権利が発生しますが、これについては契約書で、委託先がこの著作者人格権を行使しないことを定めておく必要があります。
*著作者人格権とは、著作物に含まれる著作者の人格的利益を保護するための権利をいい、日本の著作権法には公表権、氏名表示権、同一性保持権が規定されています(著作権法18条-20条)。
受託者の留意事項
受託者であるベンチャー企業は、委託者が上記の事項を踏まえてソフトウェア開発を委託していることを知ることがまず大切です。その上で、委託者が大企業である場合など、力関係で理不尽な価格設定等を押し付けられそうになった場合には、下請法という法律を活用することを考えると良いと思います。
下請法の解説については、公取委から簡単なパンフレットが出ていますので、これをご覧いただければ概要がわかります。
なお、ソフトウェア開発では、個々のプログラムをモジュールとして取扱い、使い回しが利くようにすることによって生産性をあげていくケースが多く見られます。特に、クラウド型のビジネスでは、プラットフォームに載せるアプリケーションやインフラストラクチャに載せるミドルウェアのレイヤーでのプログラムのモジュール化が進んでいます。こうした事業モデルの場合、これまでの開発委託契約のように著作権をそのまま譲渡してしまうのでは問題が発生する可能性があります。モジュール部分については著作権を留保した上で委託先に通常実施権を付与する形とすることを検討する必要があるでしょう。