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2015.11.26

会社内部の著作・発明の注意事項

内部関係だからと甘く見られない、知的財産の社内での権利処理

開発委託・受託の注意事項」では、開発をアウトソースしたり、アウトソースを受けたりする場合の問題点をご説明しました。次は、技術等の知的財産権を社内開発した場合の従業員の権利との関係をご説明します。

職務著作

まず、開発された技術等と著作権の関係について。コンピュータ・プログラムの開発については、以下の要件を満たすと、別段の定めがない限り、会社の従業員が実際の開発に携わった場合でも、作成と同時に会社に権利が帰属します。
① 会社の発意に基づくものであること
② 作成者が会社の業務に従事するものであること
③ その者が職務上作成する著作物であること

一旦従業員に帰属して、これが会社に譲渡されるというわけではなく、当初から会社が権利者となるという点がポイントです。譲渡することができない著作者人格権についても、初めから著作者が会社となるため、従業員にはこの権利は発生しないことになります。正社員のみならず、派遣社員やアルバイト社員についてもこのルールが当てはまります。「開発委託・受託の注意事項」でご説明したとおり、これが業務委託や請負ということになりますと、職務著作の問題では処理できなくなりますので、注意が必要です。

職務著作については、要件の充足もそれほど難しくないため、問題となることは多くないように思います。

職務発明

これに対し、特許の対象となる発明については、取扱いが厄介です。

特許法では、会社内部で行われた発明が、以下の要件を満たした場合は職務発明として取り扱われます。
① 発明を行った者が会社の従業員等であること
② 発明がその性質上会社の業務範囲内であること
③ 発明行為が従業員等の過去又は現在の職務に属すること

職務発明となった場合、会社はその発明について当然に通常実施権を取得することになります(特許法35条1項)。職務著作では、会社が当然に権利者となったのに対し、職務発明では、会社はライセンスを受けるにすぎない点に注意が必要です。

会社は、契約や就業規則等によって、従業員等から、あらかじめ特許を受ける権利の譲渡を受けておくことが可能です。この場合、会社は従業員等に対して相当の対価を支払わなければならないものとされています(特許35条3項)。

通常実施権があれば、会社は自己の事業のためにその発明を使用することができますが、独占使用権までは当然には認められません。また、発明をした従業員等が退社してこの権利を競合他社に譲渡したり、発明を利用して自ら事業を開始したりすることを止められません。そこで、会社は、あらかじめ従業員等との間で特許を受ける権利の譲渡を受ける合意をしておく必要があります。

なお、ここにいう従業員等には、取締役も含まれるものとされています。したがって、共同創業者が会社で開発した発明は、職務発明となりえます。創業者が後日仲違いし、権利者が会社を飛び出して同種の会社を自ら始めるといったケースで、特許を受ける権利の譲渡を受けていなかったということがあれば、目も当てられませんので注意が必要です。

また、職務発明は、発明が完成した時点で所属していた会社に帰属するものとされています。創業者の中には、元の職場で得た着想をもとに起業し、新しい会社のもとで開発にこぎつけて発明に至るというケースがありますが、この場合は原則として、創業者は新しい会社のもとで権利を実施することができることになります。もっとも、会社の退社時の元の会社との間の合意事項として秘密保持義務を負っている場合や、営業秘密の不正使用に当たる場合には、これらとの関係は別途問題となりますので、注意が必要です。

なお、「相当の対価」がどのようなものであるべきかは、あらかじめ基準を定める場合には、これが不合理なものであってはならないとされています。特段の基準を定めなかった場合には、以下の事項その他の事情を考慮して決定することとされています。どのような対価が合理的といえるかについては、特許庁が「新職務開発制度における手続事例集」 を出していますので、参考にされるとよいでしょう。
① その発明によって会社が受けるべき利益の額
② その発明に関連して会社が負うべき負担、貢献
③ 従業員の処遇

ベンチャー企業は、従業員に対してストック・オプションを付与しているケースが多く見られますが、会社の企業価値は、発明によって大きく上がっていくため、事前に付与したストック・オプションで従業員に対する職務発明の譲渡の対価は支払われているのではないかとも思われるかも知れません。けれども、職務発明の対価額の決定は、発明の譲渡に際して行われる必要がありますので、あらかじめ付与したストック・オプションで対価を支払い済みというロジックは通りません。発明後に報奨金の代わりに新たにストック・オプションを付与するようなアレンジメントは考えられるでしょう。

なお、従業員等がした職務発明に該当しない発明は「自由発明」と呼ばれています。自由発明について、契約や就業規則等によって、あらかじめ会社が特許を受ける権利を取得する等を定めても、これらは効力を有しないこととされています(特許法35条1項)。

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