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2015.11.26

役員選解任権

投資家によるガバナンスの基本権限

投資家と起業家との関係」でご説明したとおり、ベンチャー企業に対する資金提供者として、投資家はベンチャー企業の経営陣をモニタリングすることを求める権利があり、そのようなモニタリングが行われることが、ベンチャー企業のコーポレートガバナンスを確保する上で必要です。

優先株主による役員の選解任権は、優先株式を保有する投資家によるガバナンスについて会社法が認めた権限です。優先株主によって選任された取締役は、ベンチャー企業の社外取締役として、会社の重要事項につき報告・決定される取締役会に出席し、経営陣による経費の無駄遣いがないか、事業計画は予定通り進捗しているかにつきモニタリングし、必要に応じて投資家の立場から意見を述べます。

こうした意見は、特に友人同士でベンチャー企業を立ち上げた経営陣にとっては、耳の痛いものであったり、やかましいものと感じたりするかもしれません。けれども、裏に機関投資家などプロの投資家を抱えるVCのマネジャーとしては、ベンチャー投資は真剣なビジネスであり、投資資金が無駄遣いされたり、誤った使い方をされないよう第三者的立場から監視し、意見を述べてゆかなければなりません。いやしくもVC投資を受け入れた以上、創業者の当面の会社経営の目標は、事業計画に沿って企業価値を向上させることに向けられる必要があり、この点で投資家と創業者は同じ船に乗っているはずです。そのような観点からすれば、投資家からの役員派遣について、創業者はネガティブな捉え方をするべきではないと考えます。

もっとも、こうした役員会の構成についての投資家の権利を確保する手法は、優先株式の内容とすることに限りません。創業者と投資家の間で役員の指名権につき合意した上で、これに従って指名された者を役員に選任する議案に株主として賛成票を投じることを約束することによっても、創業者と投資家が望む役員構成を実現することが可能です。他方、投資家としては、このような約束が破られた場合の効果を気にして優先株式の内容とすることを要求することになります。

なお、役員選任権を優先株式の内容とした場合、これに伴って役員の選解任の手続きが複雑になります。法令に定められた要件を遵守し切れずに選解任の効果に疑義が生じるという事態が起こり得、これは投資家にとっても望ましい事態ではないはずです。手続きの煩雑さに伴う事務コストの増加や、オペレーショナルリスクの増大といった問題も踏まえたうえで、役員選任権の取扱いを考える必要があります。

優先株式の内容として取締役1名の選任権がA種優先株主に付与された場合の発行要項の例を掲げておきます。他の箇所と同様、実際の規定よりも簡略化している箇所がある点ご了承ください。

  1. A種優先株主を構成員とする種類株主総会において取締役1名を選任することができる。
  2. 当会社の取締役の選任決議は、取締役を選任する種類株主総会において、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その議決権の過半数をもって行う。
  3. 当会社の取締役の選任決議は累積投票によらないものとする。
  4. 会社法第347条第1項の規定にかかわらず、取締役の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があった場合には、株主総会の決議によって取締役を解任することができるものとする。
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