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2015.11.26

ベンチャー企業のブリッジファイナンス (1/3)

現在、シード段階でのブリッジファイナンスが注目されていますが、その条件についてご説明する前に、まずベンチャー企業のブリッジファイナンスが一般にどのような条件・仕組みで行われているかについてご説明したいと思います。

言うまでもなく、シード段階でのブリッジファイナンスの実務は、それ以前にあった通常のブリッジファイナンスの実務を踏まえてできあがっていますので、一足飛びにシード段階のブリッジファイナンスについて理解しようとしても、なかなかうまくいかないからです。

ブリッジファイナンスを行う理由

ラウンドのセーブ

ブリッジファイナンスで資金調達をする起業家サイドのニーズとしては、比較的少額の資金を次の資金 調達ラウンドに入る前に「つなぎ」として調達するということがあります。これを独立の資金調達ラウンドとしないのは、ラウンドを温存するため、すなわちこの段階でバリュエーションを行って調達するよりも、次のラウンドまで引っ張った上で一定のディスカウントでの発行を受け入れたほうが、同じ金額の調達での起業家のダイリューションが小さくなるはず、という読みがあるからです。

つまり、例えばプレマネーバリュエーション5億円で完全稀釈化後株数が10,000株の会社が1億円を調達しようと思った時に、その段階で「ラウンド」を立てて優先株式によって資金調達しようとすると、投資家には1株50,000円で2,000株の発行が必要になります。

これに対して、この段階で「ラウンド」をセーブして、次のラウンドで20%ディスカウントでの発行を約束して1億円をブリッジファイナンスで調達したとします。そして、次のラウンドまでにプレマネーバリュエーションが10億円まで上がっていたとして、新規に2億円を調達したいと思ったとします。

この場合、プレマネーバリュエーション10億円で完全希釈化後株数10,000円の会社が、ブリッジ負債分の1億円と新規調達分2億円の計3億円を調達することになりますが、2億円を投資する新規投資家に対しては、1株100,000円で2,000株となりますので、20%ディスカウントを提示しているブリッジ投資家に対しては1株80,000円で1,250株を発行することになります。

結果的に、同じ1億円を調達するために発行が必要となった株数は、独立の「ラウンド」を立てた場合よりも少なくなっています。

ダウンサイドへのプロテクション

他方、投資家としては、特に会社が厳しい状況に置かれている場合には、エクイティとしてではなくデットとして投資したほうが、仮にそのあと会社が引き続き厳しい状況から脱することができないという場合に、より投資回収がしやすくなります。

つまり、「つなぎ」の資金が必要になっている会社に対するファイナンスとしては、株式ではなく貸付で資金投入をすることで、うまく行かなかった場合の回収手段を確保しておくことが合理的である場合があるのです。

早期の資金注入

バリュエーションのための交渉が不要なブリッジファイナンスは、その分早い資金注入が期待できます。特に「つなぎ」での資金が必要な状況にある起業家としては、このスピードが重要な局面であることも多く、そのような場合にはブリッジファイナンスが検討されることになります。

借入れに関する条件

コンバーティブルデットの条件は、借入れに関する条件と、転換に関する条件に大きく分けることができます。

借入に関する条件は、元本、利息と満期に関する条件に分けることができます。元本については特に説明するまでもありませんので、利息と満期についてのみご説明します。

利息

利息については、会社の信用力、ベンチャー市場における貸付金利、ワラントの有無などを勘案して決定されますが、転換権が付されている分、理論的に利息は通常の貸付よりも低くなります。

日本でコンバーティブルデットを出す場合に一般に用いられているのは、転換社債つまり新株予約権付社債ですが、新株予約権そのものに価値があるため、その分社債部分の利息が抑えられる必要があるという話は、比較的わかりやすいのではないかと思います。

なお、このときに定められる利息には、利息制限法が課されるという見解があること、逆に極端に安い利息の場合に税務上の問題が生じうること、に注意する必要があります。もっとも、後者については、この長くつづく低金利の時代では、あまり問題にならないのかもしれません。

利息の支払は、満期一括で株式に転換されるとするタイプと、利息支払のタイミング(四半期ごとなど)が設けられて金銭で支払うタイプの双方があります。

満期

想定されているのは、現金による返済というよりは、株式への転換です。ただし、次のラウンドが想定通りに発生しない場合もあるため、満期における現金での返済が定められています。この期間は、典型的には1年程度で定められますが、6ヶ月といった短いものも存在します。
なお、株式による転換、現金での返済という言い方をすると、何か2つが大きく異なるもののようにも感じられますが、別の見方をすると、借入金を現金で返すか株式で返すかの違いともいえます。

転換に関する条件

転換価額

コンバーティブルデットの転換価額は、原則として、次の資金調達ラウンドの株式発行価額ということになります。この転換価額はディスカウントされることがありますが、この場合、1つの資金調達ラウンドで2つのクラスの株式が発行されることになり、それぞれについて残余財産の優先分配権が異なることになります(優先株式の残余財産分配の仕組みについては、「残余財産分配に関する優先権 (2/2)」を参照ください。)。このような状況は、会社の資本政策をより複雑にしますので、少なくともシリコンバレーでは回避される傾向があり、例えば、転換後に発行する株式を優先株式と普通株式の組み合わせとすることで、優先株式の価額を次の資金調達ラウンドの株式発行価額と同額に維持する工夫が見られます。

次の資金調達ラウンドが想定通り発生しなかった場合の抑えとして、既発行の優先株式への転換が想定される場合があります。この場合の転換価額は、一般的にはその既存の優先株式の発行価額と同額となります。つまり、次のCラウンドのためのつなぎとしてブリッジファイナンスを行う場合、本命としてはC種優先株式への転換が想定されますが、Cラウンドが想定通り起こらなかった場合に備えて、その前のB種優先株式への転換が可能なように作りつけられることがあります。

また、場合によっては、転換により発行される株式を普通株式とするケースもあります。

特に、想定されたラウンドの株式が発行されない場合の「抑え」として前のラウンドの優先株式や普通株式が発行されるアレンジとした場合、注意しなければならないのは、転換価額を、直前のラウンドの発行価額を下回る額とすると、前のラウンドで設定した稀釈化防止条項をトリガーしてしまう可能性があるという点です。

また、「抑え」として発行される株式に普通株式を選択した場合、稀釈化防止条項のトリガーを避けるために、直前のラウンドの発行価額で普通株式に転換できるものとしてしまうと、これが普通株式の「公正価額」として見られてしまう可能性があります。

ベンチャーの世界では、普通株式をインセンティブとして用いるために、普通株式の価額を優先株式よりも低い価額のものとして考えるのが通常です(日本ではこの常識がこれまで通用しなかったのですが 、国税庁見解によって変化しつつあることについては、「創業者株式に関する税務上の論点」でご説明いたしました。)。コンバーティブルデットにより転換される株式に普通株式を選択した場合、普通株式と優先株式の二重価額のロジックが崩れてしまう可能性があることには、注意が必要です。

転換条項

シリコンバレーで行われているブリッジファイナンスの「転換条項」は、通常は、ブリッジ投資家が転換を請求する権利があるというのではなく、一定の条件が整った場合に、ブリッジ投資家の意思にかかわりなく転換されるというものです。

転換のトリガーとして通常定められるのは「適格資本調達」が行われた場合、というものです。これは、ベンチャー企業が不誠実な資金調達ラウンドを仕組むことによって、ブリッジ投資家が予想外に不利な条件で株式に転換されてしまうことがないようにするための方策です。

「適格資本調達」の定め方には、資金調達規模やプレマネーバリュエーションの最低額を定めるといった定量的な方法に加え、広く認知されたVCファームによる調達であることといった定性的な方法によって条件を画する方法があります。

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