リーンファイナンスモデルとは
リーンファイナンスモデルとは、リーンスタートアップの理論に適合するようなスタートアップ企業の資金調達モデルをいいます。
「リーンスタートアップ」でご説明したとおり、リーンスタートアップ理論とは、単に早くリリースして修正していく中で完成度を高めるといったウェブアプリ開発の方法論を述べるものではなく、起業家の事業戦略論であるという位置づけです。事業戦略を述べるものである以上は、これを遂行する資金をどのように調達すればよいか、というファイナンスに関するモデルが裏側にないと、少なくともベンチャー企業の事業戦略論としては単なる絵に描いた餅ということになってしまいます。
6段階成長説
Startup Genomeというシリコンバレー中心に行われているイニシアチブがあり、これが2011年5月に出したレポートは、スタートアップ企業の成長過程を6のステージ(Discovery、Validation、Efficiency、Scale、Profit Maximization、Renewal)に分けた上で、そのはじめの4つについて分析しています。
レポートは、基本的に、スタートアップとは、市場にマッチする製品と、これを用いたスケールするビジネスモデルの探索のプロセスであると位置づけます。そして、スタートアップ企業の発展段階を動的に捉えるためには、キメの細かい評価をする必要があるため、6段階に分けて分析することが有用だと主張します。この6段階のうち、レポートの分析の対象となっている最初の4段階の特徴は、以下のとおりです。
発見ステージ(Discovery)
自社が意味のある課題を解決しているかどうか、人々は自社が提供するソリューションに関心をもつかどうかについて仮説的な検証をするステージをいいます。
このステージでは、創業チームが形成され、顧客に対する聞き取り、自社が提供する価値の発見、MVP(最低限の機能を持つ製品)の開発などが行われます。
マネジメントサイドでは、アクセラレーターやインキュベーターの関与が開始し、近親者によるファイナンスが行われるステージと位置づけられます。
レポートは、この期間を5ヶ月から7ヶ月としています。
検証ステージ(Validation)
サービス対価の支払や注目をあつめることにより、人々が自社の製品に関心を寄せていることについて、初期的な検証を開始するステージをいいます。
製品の核となる要素をリファインし、ユーザー数の最初の増加が見られ、測定とその分析を実施することになります。
マネジメントサイドでは、シードファンディングの実施、主要人材の雇用開始が行われるステージと位置づけられます。
レポートは、この期間を3ヶ月から5ヶ月としています。
効率化ステージ(Efficiency)
自社のビジネスモデルを精緻化し、顧客獲得プロセスの効率化を実現するステージです。正しくビジネスをスケールさせるため、顧客獲得は効率的に行われる必要があります。
このステージに至ると、顧客に提供される価値が洗練され、ユーザー体験の総点検、コンバージョンも最適化され、反復継続した購買プロセス/スケールする顧客獲得チャネルの発見が行われます。
レポートでは、この期間を5ヶ月から6ヶ月としています。
スケールステージ(Scale)
アクセルを踏み込んで積極的にビジネスを加速させるステージです。
マネジメントサイドでは、大規模なシリーズAの実施、大量の顧客獲得、バックエンドのスケーラビリティの改善、経営陣の招聘、事業部の導入と体制の整備を実施するステージです。
レポートでは、この期間を7ヶ月から9ヶ月としています。
資金調達戦略
レポートは、これまでのベンチャーファイナンスのモデルは、初期段階でスタートアップをオーバーバリュエーションしていたのではないかと説きます。これは、投資家にとって投資の成功率を下げる要因となる一方で、スタートアップ企業にとっても、その後のダウンラウンドのリスクを抱えるという意味で、必ずしも望ましくない状態といえます。
その上で、リーンスタートアップのモデルでは、当初の資金は抑えた上で、事業がスケールステージに乗った段階で、大規模なシリーズAファイナンスを実施することで、成長を加速させるべきだと説きます。
レポートでは、それぞれのステージでスタートアップ企業が調達する額のイメージを、以下のように推奨しています。
- 発見ステージ:10,000ドルから50,000ドル(おおよそ100万円から500万円)
- 検証ステージ:100,000ドルから1,500,000ドル(おおよそ1000万円から1億5000万円)
- 効率化ステージ:調達なし(スケールステージまで引っ張る)
- スケールステージ:1,500,000ドルから7,000,000ドル(おおよそ1.5億円から7億円)
上記は、リーンスタートアップモデルを前提としてレポートが推奨する資金調達パターンという意味で、リーンファイナンスモデルの1つの可能性を示したものということができそうです。
レポートに対する簡単なコメント
レポートでは、ネット系スタートアップの事業のタイプを3つに分けており、それぞれにつきその特徴や成長パターンを分析していますが、どのパターンにどのようにモデルが当てはまると考えて良いのかどうか、必ずしも明らかではないように思います。
また、日本では、以前からシード段階のスタートアップのバリュエーションは低かったので、日本的な目線で見ると、そのファイナンスモデルはそれほど驚く話ではないともいえるかもしれません(スケール段階の金額は、さすがシリコンバレーという気がしますが)。
金額の規模感はともかくとして、スマートフォンのアプリ開発など、日本の最近のウェブサービス系のシードアクセラレータなどは、基本的にはここに見られるようなファイナンスモデルを念頭において、アクセラレーションプログラムを工夫しているということはいえそうです。
レポートはこちらにありますので、お時間のある方は眺めてみるとよいかもしれません。