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2016.02.14

FinTech領域のイノベーションのために絶対に知っておかなければならない規制のお話(前編)

FinTechは、最新の情報技術を活用してこれまでの金融サービスを再構築する一連のイノベーションを総称したものです。その方法論としては、データの大量収集と解析による金融情報の生産と、無償または低価格のウェブサービスの提供を通じたユーザとの接点の構築を主たる要素としており、この意味では、他のX-Tech領域のイノベーションとアプローチの方法は大きく異なりません。

そのなかでFinTechが特殊であるのは、サービスを提供するに先立って厳格な許認可を取得しなければならないという点があるといえます。

FinTechが許認可の問題と向き合わざるをえないのは、どこの国でも同じです。これは、単に利用者保護が必要であるという簡単な理由だけによるものではなく、金融というサービス部門が国家権力と密接に関連していることに起因しています。この点は、金融の役割を正面から考えれば比較的自明のことなのですが、表立った言及はあまり世の中でなされておりません。言及がされないというのはそれがないということを意味するのではまったくありません。こうした事情があるということを理解せずに、表向きの理由のみをとらえて政府を批判したり、政府の動きにつき論評しようとする風潮がありますが、こうしたナイーブな議論は金融の現実を十分に踏まえたものとはいえないと思います。

今回は、このことについて皆さんに理解していただくため、金融規制がどのような構造となっているかについて、ご説明しようと思います。

産業インフラとしての金融

およそ経済取引は、モノや情報やサービスが取引の相手方に提供される反対給付として、相手方がこれらの提供者に対して金銭的な価値を提供することによって成立し、産業とはこうしたもののマクロ的な蓄積によって成り立っています。

「金融は経済の血液」と言われる理由がここにあります。

国家にとって自国の産業が成長することは国益そのものであると言ってよく、必要なモノや情報やサービスが必要なタイミングで円滑に提供されるかどうかは、その国において、必要な額のカネが必要なタイミングで調達され、円滑に決済される仕組みを持っているかどうかに依存します。

こうした事情によって金融は、国家の産業発展を支える不可欠なインフラとみなされ、これをいかに健全かつ競争力のある形で利用者に提供することができるかは、国家にとっての重大な関心事となります。

金融サービスは、産業発展という国益を実現するという観点からすると、政府セクターがプリンシパル、民間セクターがこのプリンシパルの意を体現するエージェントという関係が成立します。この文脈の中では、政府セクターはいかにして、国益を実現するために民間セクターをコントロールすべきかという問いが成り立つことになるのです。

許認可制の行政法的な意味合い

許認可制というのは、民間セクターが提供する特定のサービス提供や行為などを全面的に禁止しつつ、政府セクターの承諾によってこれを解禁するという行政の一手法です。承諾の要件を政府セクターがコントロールすることを通じて、民間セクターで行われる対象サービスの提供の可否やその態様、そのなかでの民間セクターの振る舞いをコントロールすることになります。

金融産業が他のあらゆる産業の発展のためのインフラをなすという関係を正面から見据えれば、産業発展という国益実現の文脈でプリンシパルである政府セクターが、エージェントである民間セクターをコントロールする手法として許認可制を採用し、活用することは、自然かつ説得力のある話として受け止めることができるでしょう。

金融サービスが許認可制を中心とした規制の問題から逃れることができないのは、以上のような理由によるのです。

国際金融規制というレイヤー

では金融が規制されるのは、ミクロレベルの利用者保護と国内のマクロ的な産業の発展という国家統治上の理由の2つのみによるものと理解してよいでしょうか。

実は、事はそう単純ではありません。

金銭的な価値というのは、一定の信用に基づいて実現するものと社会的に期待される利益を意味しますが、これ自体は無形のもので、容易に国境を超えることができます。

アニマルスピリッツを行動原理として持つ民間セクターは、この利益を取引するために国境を超えた取引をすることを何ら厭いません。他の国の規制を利用して、自国では禁止されている行為を実現することができるのでなれば、民間セクターとしては、この規制の差を利用してサービスを提供することを考えるであろうことは明らかです。

このような民間セクターによる国内規制の差を用いた裁定取引は、政府が実現しようとする国内金融をコントロールするという目的にとっては往々にして有害なものであります。国家間の規制の差を利用した民間セクターによる規制裁定(レギュラトリー・アービトラージ)は、自国の産業インフラである金融規制体系を脆弱化する面があります。

これだけではありません。特定の規制体系により金融を規制することのメリットがそれほど大きくない国家は、この規制の差を積極的に活用することで、例えば自国に金融産業を誘致するなどして、規制の差による経済的利益の恩恵に自ら与ろうとします。

このような民間セクターや特定の事情のもとに置かれた他国政府セクターによる挑戦に対応するためにはどうするか。この問題に対して、政府は各国政府と金融規制体系を揃えるカルテルを実施するという対応をもって回答することになります。このカルテルは、政府セクター自身による抜け駆け行為を防止するため、一定のエンフォースメントの仕組みを同時に備えることになります。

国際金融規制の枠組み

金融サービスにおけるこの政府間の枠組みは、G20を中心とする世界の主要国家により構成される国際的な規制監督者組織によって担われることになります。

これは金融サービスの業態ごとに構成されており、

  • 銀行についてはBCBS(Basel Committee on Banking Supervision )
  • 保険についてはIAIS(International Association of Insurance Supervisors)
  • 証券についてはIOSCO(International Organization of Securities Commissions )

が、それぞれ担い、国際金融規制の標準を設定しています。

国際金融規制の標準の設定者としては、そのほかにも、マネー・ロンダリングやテロ組織への資金供与を防止することを目的とする金融業態の枠を超えた国際組織であるFATF(Financial Action Task Force)が重要です。

そしてIMF(International Monetary Fund)は、これらのスタンダードセッターが設定した基準に各国規制が合致しているかどうかを評価する機能を担っています。

IMFによる各国規制のアセスメントの結果は公表されます。審査の結果の公表とこれによるピア・プレッシャーが、各国政府に対するスタンダード遵守のための重要なエンフォースメント手段となっているのです。

まとめ

このように、金融サービスに対する規制は、個別取引におけるミクロレベルでの利用者保護、産業発展のためのインフラであることに伴う許認可制を中心としたエージェント規制、規制較差を利用した民間セクターと政府セクターの試みを監視する国際監督者規制の3段階の構造により構成されているのです。

 

 

 

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