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2015.11.26

シリコンバレーのひみつ

シリコンバレーモデルの特徴と情報共有基盤

モジュール化とネットワークがシリコンバレーモデルを理解するカギ

C.Y.BaldwinとK.B.Clarkの “Design Rules: The Power of Modularity” (MIT Press, 2000) によると、汎用大型コンピュータシステムIBM/360のデザインにおいて、全体的なシステムの構成は、複数のモジュール型のデザイン単位へ分割され、これらのモジュールはオープン型のインターフェイス・ルールによって連結されることになりました。

この全体的なデザインの変更により、個々のモジュールの改良は、インターフェース・ルールと整合を取りさえすれば、他のモジュールとは独立に行うことが出来るようになったのです。 これによって、IBMのエンジニアは、モジュール製品のデザインに特化した会社を自ら立ち上げ、またはベンチャーキャピタリストやコンサルタントとしてこれらのスタートアップ企業に立ち上げや支援に従事するようになりました。

これが現在のシリコンバレーモデルの原型です。

シリコンバレーモデルとは、したがって個々のスタートアップ企業の特性を指すものではなく、複数のスタートアップ企業からなる全体的なクラスターを単位として検討される必要があります。 シリコンバレーモデルの基本戦略は、クラスターを構成するいずれかのスタートアップ企業が、革新的なビジネスに関する有力な方向性を見出した場合、これに資金供給することによってビジネスを具現化することを試みるというものですが、この基本戦略が、VC、大学教授、弁護士その他のアドバイザーなどを情報媒介者・投資家として、クラスター全体にあまねく浸透し、共

分散型信用情報モデル

なぜこれらの認知・知識共有がシリコンバレーにとって核というほど重要な要素となるのか、それは情報経済学の立場から説明可能ではないかと考えています。 すなわち、シリコンバレーで生み出される革新的なビジネスは、その革新性ゆえに、不確実性も高いものが多くあります。また、「エコシステム構築のための行動ビジョン」でご説明したとおり、ベンチャービジネスとは、ビジネスモデルや事業計画が優れているかどうかということと同じくらいに、もしくはそれ以上に、そのビジネスを「誰がやるのか」ということが、成功にとって大きな要素を占めています。特にそれが革新的なものであればあるほど、一つにはその革新性自身のため、もう一つには周囲を取り巻く環境の抵抗のため、困難性が高まっていくので、これを乗り越えられる強い意志力といった企業家資質が求められるということになります。 すると、そのビジネスに投資する投資家としては、そのような不確実性が高いビジネスが本当に投資に値するのか、より深い情報をもとに慎重に判断する必要があります。その際に、より多くの良質な情報にアクセスするためのソースとして機能するのが、シリコンバレーの共有された認知資産、すなわちコミュニティーです。

これは、銀行による貸出モデルとの対比で言えば、分散された信用情報モデルということができるかもしれません。すなわち、銀行は、取引企業に対する貸出に際して、それまでの口座取引情報や決算情報、取引先の信用情報その他金融仲介業者として収集した信用情報を元に、貸出の可否と貸出条件を決定します。こうした銀行が信用供与に際して参照する情報を自らが集中的に管理している体制と異なり、シリコンバレーモデルでは、同じクラスター内に属しているコミュニティーメンバーが、投資先候補企業や創業者の情報を分散的に保有しています。例えば、創業者の専門能力や折衝能力などは、彼の前職での上司や同僚が知っているでしょうし、大学院時代の研究については大学の指導教授が知っています。投資家であるVCのマネジャーは、こうした人物と驚くほど広い人脈を持っており、こうした人達からの人物評、技術の方向性といった方面からのアドバイスを得て、時には足りない人材を創業メンバーにあてがいつつ、投資案件として成立するように創り上げていきます。また、VC同士でも、一社で必要資金をカバーするにはリスクが高いと判断した場合には、他のVCを誘うことによって協力し、資金が必要な大型のベンチャー投資も実現させていきます。

日本のネットワークとの比較

もちろん日本でも、ベンチャーキャピタリストは案件発掘のために様々な企業家やアドバイザーと連携をとり、広い人脈を築いています。しかしながら、これは、ベンチャーキャピタリスト対多数という形でのネットワーク構造が強く、大学教授やアドバイザー対企業家、アドバイザー同士、大学教授とアドバイザーといったネットワークが極めて弱いと感じます。1対他というネットワークではなく、ベンチャーコミュニティに属する関係者が網の目のようにつながっているという姿が、あるべき姿であると思います。少なくとも、管理人がシリコンバレーで勤務していたときに感じたシリコンバレーのネットワーク網はそのようなものでしたし、これによって思わぬところから思わぬ人の紹介を受けたことも一度や二度ではありません。

同業者同士はすなわち潜在的な競合相手ですから、なぜ敢えてそれらとつながらなければならないのかという思いがあるかも知れません。けれども、ベンチャーのコミュニティーは明らかに相互依存関係によって成り立っており、そのコミュニティに籍を置く以上、同業者と展開するゲームは繰り返しゲームになります。繰り返しゲームで各プレイヤーが最大の成果を上げるもっとも良い方法は、各プレイヤーが相手に協力し続けることであることは明らかです。

クラスターの強固なコミュニティを作り上げ、維持するために、人脈の共有を含め、関係者全員が協力する体制を創り上げることが、何をもってしても重要です。 管理人自身、このための仕掛け作りはまだ構想を詰め切れておらず、今はシリコンバレーで経験したのと同様、個人レベルで積極的な紹介を進めることを心がけている程度ですが、想いを同じくする人がいたら、ぜひ一緒にやっていきたいと思います。

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