「シリコンバレーのひみつ」では、IBMによる汎用大型コンピュータシステムIBM/360のデザインが複数のモジュール型のデザイン単位へ分割され、これらのモジュールがオープン型のインターフェイス・ルールによって連結される構成となったことが、シリコンバレーモデルを生み出すきっかけとなったことをご説明しました。
日本では、長らくの間、垂直統合型ともよばれる擦り合わせ型の製品デザインにより、モノ作りの世界で快進撃を続けて来ました。擦り合わせの世界では、個々の製品は常に製品全体のために最適に調整され、汎用性を持たないため、部品メーカーは大企業の下請けとしての地位に甘んじざるを得ませんでした。
こうした製品デザインが今、急速に時代遅れなものとなりつつあります。パソコンを中心としたデジタル製品は、いずれもモジュール型の製品デザインを採用しており、擦り合わせ型が強みを誇っていた自動車産業でさえ、電気自動車化が進むに連れ、モジュール型の製品デザインとなりうるともいわれています。
情報通信技術の世界では、Google、Apple、SalesForce、Facebookといったプラットフォーム業者が、プラットフォーム上で動く個別のサービスをモジュールとして捉え、ベンチャー企業にプラットフォーム上のビジネスを展開させてフィーを稼ぐモデルを採用し、プラットフォーム上の開発モジュールの開発業者を買収するなど、情報通信産業ビジネスもまた、モジュール型のビジネス展開を見せています。 モジュール型の製品デザインへのデザイン革命がシリコンバレーモデルを作り出したというシリコンバレーの先例を見ると、モジュール型のビジネスデザインが主流を占めつつあるIT産業を中心に、日本でも自律的に存続可能なベンチャーエコシステムの構築が可能なのではないかと感じられます。
こうしたエコシステムが構築され、リスクキャピタルがコミュニティ内を回るシステムが確立することにより、プラットフォームそれ自身を構築するような、ゲームルール(ビジネスモデル)の変革者に対して、ルール変更に必然的に伴う多額の投資資金が供給される体制が整うことになるのだと思います。
産業のモジュール化には、これに伴うコストの問題や管理の難しさの問題など、様々な検討要素が残っておりますが、モジュール型ビジネスで一大成功モデルを切り開いてきたシリコンバレーで、電気自動車を含む新しいタイプの製品の製造業の芽が出つつあることに留意すべきように思います。モジュール型のビジネスは一度離陸すれば破壊的イノベーションを生み出す可能性があり、そこには我が国のものづくり産業クラスタが、従来型の下請けから独立したモジュール製造ベンチャーの担い手に進化していく萌芽を見いだせるかもしれません。
連載記事
- 必修知識-ベンチャー実務について理解するために必要な背景
- 「はじめの一歩」から間違えないために
- ベンチャー市場の「エコシステム」を作ろう
- シリコンバレーのひみつ
- 製品デザインの変化とベンチャービジネスの興隆
- ベンチャー企業と創業者の関係-ベンチャー企業、創業者、VCの三者を巡る経済的な関係 (1/3)
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- 創業者と投資家の関係-ベンチャー企業、創業者、VCの三者を巡る経済的な関係性 (3/3)
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- 創業者利益発生のメカニズム
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