起業家は何を投資するのか
設立したベンチャー企業の資本構成をどう考えるかが、起業するに当たって創業者に最初に知っておいて欲しい重要な論点です。
この点を説明するには、まずベンチャー企業、創業者、VCの三者を巡る経済的な関係性を理解する必要がありますが、第一に、ベンチャー企業と創業者の関係についてご説明します。
当たり前のことですが、特に日本では忘れられがち又は軽視されがちなこととして、ベンチャー企業と創業者は一心同体ではありません。ベンチャー企業とは、創業者の事業アイディア(プロジェクト)を形にしていく過程で必要となる「箱」であり、その箱は、ベンチャーというプロジェクトを実現する過程で生み出される経済的な利益が貯められていく貯金箱のようなものです。そして、この貯金箱に貯められた経済的な利益は、VCをはじめとする投資家、取引先、従業員そして創業者を含む様々なステークホルダーのものであり、最終的にはこれらの人たちに分配されるべき利益です。したがって、ベンチャー企業は創業者そのものではなく、創業者はベンチャー企業が生み出す(潜在的なものを含めた)利益に対してステークを持つ一関係者である、というのが正しい理解です。
それでは、創業者はなぜ、ベンチャー企業から生み出される利益に対してステークを持つことができるのでしょうか?ステークというのはリターンの根拠となり、リターンというのは何らかの投資をしていないと受け取ることができませんので、この問いは、「創業者はベンチャー企業に対して何を投資するのか?」という問いに置き換えられます。
創業者がベンチャー企業に対して行っている投資は、大きく2つあると考えられます。1つは自らが考えついた事業アイディア(プロジェクト原案)をそのベンチャー企業企業に対してだけ利用を許可するという意味での排他的ライセンス、もう1つは、その事業アイディアを実現するために今後かける労力・時間です。2つめについて、創業者はベンチャー企業から労務に対する対価を給与として受け取りますので、より正確にいうと、同じ時間・労力をもっと安定的により高額の報酬が支払われる他の職に充てた場合と比較した、給料額や安定性などの差(機会コスト)に相当する額を投資したということができるでしょう。
このように、創業者がベンチャー企業を設立して事業を開始するに当たって行う投資は、本質的にはお金ではなく、事業アイディアの排他的使用権と機会費用相当額であると考えられます。これらの投資リスクに見合うリターンをどう設計するか、というのが、創業者から見たベンチャー企業の資本構成の設計のテーマとなります。
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