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2018.09.22

シェアリングエコノミーの現状と課題について(その2)

シェアリングエコノミーの現状と課題について、内閣府のIT総合戦略室に提出した意見書の共有(その2)です。

その1はこちら

規制のサンドボックス制度との関係について

中間報告書の背後に流れる価値観は、先般の通常国会において成立し施行された生産性向上特別措置法により創設された「規制のサンドボックス制度」が持つ価値観と共通するものです。

規制のサンドボックス制度は、「まずはやってみる」を指導理念として、現行法上の解釈において、何らか適法であるというロジックを構築することができるのであれば、これを一定の期間、一定数の人を対象として実際にやってみることができてもよいではないか、という制度です。その結果、特に懸念されるような問題が発生しなかったのであれば、これを本格的に展開することに支障はないのであるから、実際にそのようにできるようにすべきであり、これを阻害している制度があるのであれば、対処しなければならないのはむしろ制度の方である、という考えに立脚しています。

法律が想定していない事項について、これを実際に行う前に抽象的な規定を解釈してこれが許される・許されないと空中戦を展開することには実践的な意味はありません。まずはそれが規制されるべきような立法事実が果たしてあるものなのかどうなのかを明らかにする必要があり、そのためには実際にそれを行ってみないことには分からないという考え方は、「行政に事前にお伺いを立てて良い悪いを判断してもらい、良いと言ってもらったもののみ行っても良いものである」という、日本においてともすれば取られがちなコンプライアンスの考え方とは異なるものの考え方です。

シェアリングエコノミーは、まさに適法性の判断について、実地にサービスを出してみて社会とコミュニケーションを図っていくことで、社会と折り合う答えを見つけ出していくという考え方を採用している点で、規制のサンドボックス制度が持つ適法性の考え方と通底した考え方を持っています。

規制のサンドボックス制度は、日本におけるイノベーション推進のための切り札として期待されているところであり、中間報告書における適法性の枠組みが、イノベーションを推進するために制度の中に織り込まれつつあることがわかります。

消費者行政2.0に向けて

情報・コンテンツ分野において、インターネットを活用するためには、これによる不必要な個人情報の拡散は避けるべきこと、インターネット上の情報は不特定多数の者が配信するものであるため、必ずしもレビューを得たものではないことを認識した上で活用すべきこと、自由なアーキテクチャであることにより様々な侵害がありうることを理解したうえでパスワードなどセキュリティを自ら管理すべきことなど、いわゆる「ネットリテラシ」と呼ばれるものを身につけることが必要であることは、インターネットが一般化してきたここ20年ほどの間に、人々にも広く理解されてきたものと思います。同時に、情報・コンテンツ分野においてインターネットを活用する業者においても、インターネットが人々に利用しやすい場となるよう、インターネットの安全の確保に向けて、技術的、物理的、組織的に不断の努力をしてきたことも忘れてはなりません。

シェアリングエコノミーの現状と課題(1)でも少し触れたとおり、Society5.0が目指す世界は、主として情報・コンテンツ分野において活躍してきたインターネットが、モビリティ、医療・健康、金融、エネルギー・インフラ等のこれまでリアル世界のものと考えられてきた分野に進出し、サービスの価値がインターネット側にシフトする、ないしリアル世界とオンライン世界の融合によりサービスの価値が生み出される世界ということになります。

この価値を消費者が十分に享受するためには、情報・コンテンツ分野においてこれまで求められてきたネットリテラシと呼ばれるものに相当するものを、これまでリアルビジネスとされてきた情報・コンテンツ分野以外のあらゆるサービスの消費者が、身につけなければならないということを意味します。

シェアリングエコノミーは、Society5.0が目指す社会を実現するサービスの先兵であり、Society5.0を実現してすべての人にさらなる豊かさを提供していくために、いまこそ我々は、消費者がシェアリングエコノミーの価値観を受入れてそこから価値を引き出すことができるよう、消費者をアップグレードする必要があります。

これまでの消費者行政は、事業者が消費者に対してサービスを提供するというモデルを念頭に、資本を背景に情報を持つ事業者と、これと対等の情報を持たない消費者との間に適正な取引関係を構築するために、事業者側に様々な規制や負担を負わせるという構造を基本としてきたように思います。消費者はあくまで保護されるべき「弱者」としてのみ存在し、消費者に対する啓発はあくまで、このような情報の非対称性を前提に、「消費者が事業者にだまされることのないように」という考えがその基本にあったように思います。

これから我々が課題としなければならないのは、そのような「弱い消費者」を前提に、これをどのように保護するかというものではなく、誰もがインターネット上で、リソースの提供者にもなれれば利用者にもなれるという、より自立した経済主体としての消費者をどのように創り上げていくか、ということであると考えます。

これを実現するための方策を検討するにあたってカギとなるのは、インターネットという仕組みそのものにあると考えられます。すなわち、インターネットというのは、アイディアを人々に伝播させ、人々の行動を変えるために、一方的な情報提供を主眼とする紙のメディアや放送メディアなどの従来のメディアとは一線を画したテクノロジーであります。多くの主体との協調のもとでデータを駆使し、インターネット空間で主体的に経済活動に従事することができる、そのような主体的な消費者を創り上げるために、消費者行政はどのようにデザインされるべきか。データの力によって多様なプレイヤーと協調して人々の行動の変容をうながす仕組みがどのようなものなのか、について、今後の消費者行政は考えなければならないと思います。

シェアリングエコノミーの普及ということのみならず、IoT時代の日本の大戦略であるSociety5.0を絵に描いた餅に終わらせず実現するためにも、この新しい消費者行政のデザイン「消費者行政2.0」の検討と構築は、不可欠であろうと考えるものです。

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