シェアリングエコノミーの現状と課題について、内閣府のIT総合戦略室に提出した意見書の共有(その3)です。
すでにご説明したとおり、シェアリングエコノミービジネスは、これ自体の重要性もさることながら、これから加速度的に進んでいくオンラインとオフラインの融合するビジネスモデルの嚆矢としての役割を担っています。シェアリングエコノミービジネスを円滑に展開することができる制度を築くことは、ひとりシェアリングエコノミービジネスのためではなく、今後の日本の産業競争力に関わる一大事であります。
この点に関連して、今後シェアリングエコノミーを通じて検討されなければならない法制上の課題として、以下のものが挙げられます。
プラットフォームというビジネスモデルに対する法律上の位置付け
プラットフォームは、伝統的に取引の場を提供するものと位置づけられ、その上での取引には関与しないという建前が取られてきました。しかしながら、他方においてその取引はプラットフォームなしには発生しないものであり、プラットフォーマーはこれらの取引のイネーブラーとして不可欠な存在ということになります。
とはいえ、取引自身が現に当事者間で行われているため、その条件や内容の適切性をすべてプラットフォーマーの責任とすることはできません。
このようなプラットフォーマーの役割について議論するためには、プラットフォーマーという立場が私法上いかなる位置づけにあると考えるべきなのかについて、もう少し体系的な議論がなされる必要があるように思われます。特に、プラットフォーマーについてこれを業法等において位置づけることを考えた場合、プラットフォーマーを定義しなければならず、具体的にいかなる法律行為をするものをもってプラットフォーマーと呼ぶのかについて、議論を深めていくことが不可欠です。特に日本では、商法において「媒介」と呼ばれているものとプラットフォーマーの行為との関係は、業法分野ごとに必ずしも統一された考えを持っていないようでもあり、プラットフォームというビジネスモデルを法的に位置づけるためには、この点の議論を避けて通れないように思われます。
業法上の定義付けをするにあたっては、法律行為の内容を特定して当該法律行為を行う者を業者として位置づけるという方法のほかに、その事業者が果たす「機能」に着目して、その機能の提供者をもって業法に服するものと整理する方法があるものと考えられます。法律行為に着目した「プラットフォーム」の法的な定義はこれまでなかなか成功していないことからすると、この果たされる機能に着目した定義とすることは一考に値するように思います。
プラットフォーマーを定義することができれば、あとは具体的な規律としてあるべき内容はどのようなものになるのかという話になります。中間報告書に含まれているガイドラインは、まさにそのための議論のたたき台としての意味があり、その妥当性が現在、シェアリングエコノミー認証委員会において検証されつつあるということだと考えています。
法令の基本的な理念としては、リソース提供者、リソース利用者とプラットフォーマーがそれぞれ責任を分担して、全体としてサービスが持続可能となり社会(サービスを消費する者のみならず提供する者も)が自己責任のもとでサービスを利用することができる状態を、法律とテクノロジーを用いてデザインするというものになるはずであります。この際特に重要なのは、なんでも法律で定めるという従来型の発想を捨てて、テクノロジーの仕様や規格の決定を通じた取引の場のアーキテクチャを定めることで、規制の柔軟性を確保しておくという基本態度であろうと考えます。
この点に関連して、現在シェアリングエコノミーサービスが備えるべき内容を、サービス規格として捉えて、国際基準としてこれを定着させようという動きもあります。こうしたものをベースに、あとはエンフォースメントを担保するために法制度が何をすることができるのか、ということを考えるというアプローチも十分に考慮に値すると思います。
プラットフォーム上に流通する取引データの取扱い
プラットフォームに流通する取引データは、その分析から得られた知見が、サービスの改善を通じたプラットフォーマーのさらなる規模拡大と、そこで得たデータを隣接領域に展開することを通じたプラットフォーマーのさらなる事業領域の拡大のためのカギとなることから、プラットフォームビジネスの規律を考える上で避けて通ることができない論点です。
他方において、プラットフォーム上でユーザーがどのような行動をしたかについての記録は、ユーザーの行動に起因するものである以上、本来はユーザーのオーナーシップに属するものとして、ユーザーがこれをコントロールすることができてしかるべきデータであると言えます。
プラットフォームが取引データを不当に囲い込むことによって同分野のみならず他分野における競争優位性が不可逆的なまでに拡大するという懸念が現実的なものとなりつつあるなか、取引データの取扱いについては、競争政策的な観点や個人情報保護の観点といった行政法上の目線において重視されるのみならず、自らの行動データは自らがオーナーシップを持つという観点から、個人がこれをどのように管理・処分できるようにするべきかという私権の枠組みにおいても考慮されていかなければならないものと考えます。
データ資本主義のもとで、取引データを法制度上どのように取り扱うかについては、さらなる深淵が議論がありますが、今回はシェアリングエコノミーに関する論考なので、この点についての解説は別の機会に譲りたいと思います。
プラットフォームビジネスと課税
プラットフォームビジネスにおいては、本体的な経済取引は当事者間で行われ、プラットフォームには取引手数料のみが収益として計上されることになるため、本体的な経済取引部分を課税実務においてどのように把握すべきか、という点が問題となります。
シェアリングエコノミーに代表されるような分散型のビジネスモデルがSociety5.0の進展により主流となっていくことが高い確率で予想される中、これは単なるシェアリングエコノミーのみの課税政策ということにとどまらず、財政の持続可能性を維持するために、オフラインとオンラインが融合するビジネスモデルにおける課税の仕組みがどのようにあるべきかという重大な論点であると考えます。
個人が経済主体として組織に帰属せずに稼得する機会が飛躍的に増大することは、個人の働き方をも大きく変えるものであり、これは所得の流入経路が変わることにほかなりません。これにどのように対処するかということを真剣に検討する必要があります。
なお、こうした状況における伝統的な対処の方法として、取引情報がプラットフォームに集約されることをもって、プラットフォームに源泉徴収義務を課すという考え方も想定されます。しかしながら、現在、分散型台帳技術の進展に伴い、プラットフォーム事業者が存在しないマッチングモデルが実現することが予想されており、このような安易な解決方法は対症療法に終わるのではないかと懸念されます。
本質的には、フィンテックのさらなる推進に伴うマネーのデジタル化によって、マネーの流れは基本的にネットワーク上でデジタルに追うことができるようになります。もちろんそのデータ量は膨大なものになりますが、ハードウェアの加速度的な改良と、これを分析する技術の指数関数的な向上により、データが膨大であることが処理できないことの理由には必ずしもならない時代が到来しつつあると承知しています。個々の納税主体の稼得状況をデータによってリアルタイムに把握することができるようにすれば、原理的に納税そのものも自動に近い状態で行うことができるようになるわけでありまして、このようなことが可能であることを前提とした①課税の仕組みの具体的な策定、②これをエンフォースするための仕組みと課税当局の人材のスキルセットのアップデート(ネットワーク監視、データ分析、ソフトウェア生成スキル等)、③さらに立法・政策立案サイドにて、②を前提に、これを実現するために民間事業者が備えるべきソフトウェアの要件を策定することができる能力の獲得(そのために必要な専門機関の創設を含む)について検討する必要があると考えます。
この記事で掲げた論点は、今後のシェアリングエコノミー、さらにはSociety5.0の実現を図っていくにあたって、検討を避けて通ることができない課題であり、論点の大きさからすると今すぐにでも検討を開始しないと、ルールメイキングにおいて他国に劣後してしまって、Society5.0が国富に結び付けられないという事態を招いてしまうおそれがあるように思います。